D.Force The Third Chapter
Force-5
ディクス vs スティング
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冬の空は天高い。 冷たい風もなく、暖かい日差しがデルタ全体を包んでいた。芝生に寝転がって昼寝をするのに最適だろう。 しかし、のどかな日和とは反して、デルタの王宮の一角――――――― 術者のための演習場は緊張で張り巡らされていた。 「はー・・・いよいよね」 ナチはスティングたちがいる向こう側をまぶしそうに見ている。 「ああ、そう、だな!」 「ディクス、スティング強いんだから甘く見たら駄目よ。でも、傷つけないようにね」 「最善を、尽くす、よっ!」 そういうと入念なストレッチをやめ、大きく伸びをした。 「こんな良い天気は美味しいケーキで一息つきたいんだけどな・・・」 青い空を見上げながら惜しそうに言う。 「香ばしい香りの美味しい紅茶に、甘酸っぱい香りのオレンジのシフォンケーキ・・・シフォンケーキだったらすぐできるんだけどな。生クリーム添えてさ」 「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!そんなの明日でも出来るじゃない。わたしの分のマスターの称号がかかってるんだからとにかく頑張ってよ」 「わかってるよー」 緊張感のないディクス。のんびり答えると再びストレッチを始めた。 「セフィーロ、レクサス。滅多にない試合なんだからちゃんと見ておくのよ」 二人の後ろに控えているセカンダリにナチが言う。高レベルの術者の戦いを見せておこうとナチが連れてきたのだ。アクオスはスティングのほうで観戦するらしく、ここにはいない。 「ナチ、ナチ」 セカンダリに構い始めたナチを呼ぶ。 「何?」 振り返るとディクスは正立して見せた。さっきとは違い、真剣な表情だ。 「すぅーっ・・・」 体に新鮮な空気をめい一杯取り込む。そしてゆっくりと吐き出しながら手を下に伸ばして上半身を折り曲げた。 ぺた そしてディクスの両、手のひらが見事に地面につく。 「見たか、俺の前屈!意外にやわらかいだろ!」 「・・・・・・・・」 「風呂上りにストレッチやってたらできるようになったんだ」 と、顔を上気させて得意げである。ぽかんと見ているナチを見て嬉しそうだ。 「あ・・・ああ・・・そうよね!足短いもんね」 「!」 しかし、ナチのひらめきの一言にその自信が総崩れ。今度はディクスがぽかんとする番だ。 「あんまりストレッチしてると逆に疲れるよ。最近体動かしてないんだから無理しないようにね。歳が歳なんだから」 ディクスのほうを向かず、セカンダリたちの頭をなでながら言う。 「・・・・・・」 返す言葉もなく、ディクスは固まるしかなかった。 一方のスティングサイド。 「スティング、気をつけるのよ?でも、ディクスさんを傷つけないようにね」 「ええ、最善を尽くします」 先ほどからフィオールが何かとスティングに注意を言う。約束の時間が迫るごとに、その回数は増えていった。 「スティング、お前は私たちの代表だ。全力で戦いなさい」 この試合の仕掛け人、アルバートが言う。 「クロードさんも全力でぶつかってくるだろう。フィオールの言うように相手を傷つけないように・・・と考えないように。そんなに甘い考えでは負けるのは必至だ」 「――――――― はい」 アルバートの言葉にフィオールは心配そうな顔をした。 しかし、スティングの考えはアルバートと同じ。傷つけないように戦おうとすれば傷つくのは自分だ。プライドと、王族の威厳をかけて戦うのだ。生半可な気持ちで戦おうとは到底思ってはいない。 「周りを巻き込むなよ」 エリオスがエデンの隣でそういった。 「危なくなったらエリオス、頼むよ。あと、エデンも」 笑みを浮かべてそういった。 「スティング、時間だ。位置につきなさい」 腕の時計を見る。約束の時間だ。 スティングは意志を示すように力強くうなずいた。 「アクオス、この戦いよく見ておくんだよ」 鼻の上に手を置いてやる。アクオスは少し寂しげに鳴いたが、一歩下がって身を落ち着けた。 「では、行ってきます」 そしてバトルフィールドへと足を踏み入れた。 「時間みたいね・・・ディクス、くれぐれも無理しない様にね」 スティングが位置についたのを見てナチが言う。 「俺はそんなに歳じゃないよ」 「今回はそういう意味じゃないわよ。・・・・・・とりあえず、がんばって!」 こぶしを作ってディクスに差し出す。 「―――――― ああ、笑って帰ってくるよ!」 ディクスもこぶしを作り、ナチのこぶしにぶつけた。 「決着条件どうしますー?」 スティングがディクスに向かって叫ぶ。 「俺は根を上げないから、お前が根を上げるまで〜!」 「分かりました〜!」 ディクスの自信ありすぎな決着条件にスティングはとがめもせず、即答で了解したのだった。 ―――――― もしかしてわざと負けるつもりなんじゃなかろうな・・・? エリオスがスティングのマイペースさに眉をひそめる。他の観戦者も同じだ。全員の不審な目がスティングをさす。 ――――― しかし、その心配はすぐに消えた。 ざわっ・・・ 周囲の木々が"それ"に反応するように葉をざわつかせる。 「えっ・・・」 周囲の変化に思わず声に出すディクス。 ディクスだけではない、その場の全員がその異変を察知した。 ディクスやナチはもちろん、アルバートやフィオール、エリオスさえも知らなかったスティングの本気。 ・・・あいつ、本当に本気だな・・・ スティングの殺気にも似た本気に、ディクスは初めて戦慄した。分かってはいたが、甘ちょろい相手ではない。 今までにないスティングの雰囲気に周囲が圧倒されていた。 「じゃあ、行きますよ・・・」 静かに言い放ったスティング。距離は結構あるのにその声は先ほどよりもはっきりと耳に届いた。 「――――― ああ・・・!」 キュゥゥゥゥッ 収束するような音。しかし、ディクスはその音の正体を知っていた。 「エアークラッシュ!!」 ザンッ!! 「風よ!」 殺傷能力の高い風の塊を放ってきたスティングに、ディクスは風をまとい、高く飛んだ。 「水よ、炎よ!互いを持って我が意に従え!」 ディクスの前に水と炎の相反する力が生まれる。 「水炎の円舞っ!!」 二つの力は大きく円を描くようにスティングに向かって放たれる。そしてその距離を半分過ぎたところで水と炎の塊が互いにぶつかった! じゅわっ!! 互いの力を打ち消そうとした二つの力は水蒸気という新たな力を生み出した。 「行けぇ!」 腰から剣を引き抜いたディクスが剣を大きく振る。剣圧でその熱い水蒸気がスティングに向かって凄い勢いで迫ってくる。しかし――――― 「なっ・・・!」 スティングが自らその中に突っ込んだ! 「大地の息吹を覆いし冷たき殻、天を貫くその尖りよ、我が意思をもって随従せよ!」 パリッパリパリッ・・・ 「樹氷の尖!!」 白い水蒸気の中から無数の氷の錐が放たれた。 「壁よ!」 ディクスのその一言でその氷の錐はすべて砕けちった・・・が、 パリパリッギィンッ!! ブラックフォルスをこの術で倒した時のように、ディクスのシールドにも氷が広範囲にわたって張り付く。 「面倒な・・・!ブレイク!」 氷が張り付き、視界の悪くなったシールドをなくなく封じる。 「駆け巡る怒涛の力・・・」 ――――――― この詠唱は・・・ スティングの口からつむがれる聞きなれた言葉に一瞬判断力を奪われる。 「鳴神の力と共になりて力と為す!疾風迅雷!!」 ドカッバリバリバリッ!!! 轟音と強風、そして青い稲妻がディクスを襲う。 「パクリかっ!!!」 ディクスの素っ頓狂な一言に呼応して全てを遮断する硬い壁が現れる。その黒いシールドは稲妻の強い光さえも遮断し、術者を守る。 黒いシールドはたいていの攻撃は防ぐことが出来るが、いかんせん黒い。外が見えないのだ。 「ブレイク!」 壁を自ら砕く。黒い壁から開放され、太陽の光が差し込むはずだった・・・。 しかし、差し込んできたのは太陽の光に反射し、まぶしく光るスティングの剣。 「はっ!!」 中に浮いているディクスに風の力を借り、直接切りかかったスティング。体勢を整えていないディクスに垂直に振り下ろした! ギインッ 「・・・・・・っ・・・!!」 スティングの体重全てがディクスにのしかかる。不利な体勢で何とか一撃を防いだものの、それが精一杯。 がくんっ 不意打ちと不利な体勢のせいでディクスの体が二メートル垂直に落下する。 「ディクスッ!」 思わず叫んだナチ。しかし、すんでのところでディクスは持ち直したようだ。スティングに圧されつつも、何とか高度を保っている。 「埒が明きませんね」 剣を交じあわせたまま、スティングがにっこり笑って言う。 だんっ ディクスの剣を踏み台にスティングが後ろに遠く飛ぶ。 「エアークラッシュ!」 再びスティングが術を放つ。 ザンッ!! ディクスは剣を振り、その風圧で襲い掛かる風を砕こうとした。しかし、運がいいことに押しかかる風はやや軌道をそれた。ディクスの剣圧にもその威力を殺がれたものの、一陣の風はディクスの頬に赤い軌跡を残した。 たんっ スティングが地面に着地すると同時に、術を解いたディクスも地面に降り立った。 「スティング!お前俺の術パクっただろ!」 自分が作り出した術、疾風迅雷をまねされ、ディクスはわめいた。 「優秀な術者になるには優秀な術者の術を盗むのがその第一歩ですよ、ディクス。それに疾風迅雷だけじゃありません」 「へっ・・・?」 「竜神の舞!!!」 ドォォォッ!! 轟音と共に巨大な竜が出現する。エンドレスでは見受けられない胴の長い竜。その竜がディクスに向かって飛んできた!! 「―――――― あんな術を一瞬で出現させるなんて・・・」 スティングの術にフィオールが感心している。 「違う。クロードさんとのわずかな会話時間にスティングは術を完成させたんだ・・・」 戦いから目を離さず、エリオスが言う。その表情には驚きに満ちている。 ・・・いつの間にか戦闘の心得を修得したようだな、スティング・・・ 「またっ、パクリかーっ!!」 まっすぐに向かってきた竜。ディクスは避けようと再び風をまとい、垂直に飛んだ。 「あ゛ーっ!来たーっ!!」 しかし、ディクスが垂直に飛べばその竜も後をついて天を仰ぐ。追跡型の術を併用しているらしい。しつこくディクスを追い回している。 スティングは発動している術に集中し、ディクスを目で追いつつもその場から動かない。 「――――――― 竜は竜同士でじゃれてろ!!」 めちゃくちゃに飛びながらディクスが腕を振り上げる。 ドォンッ 放たれた術はスティングの生み出した竜とは色違いのもの。その赤い竜は空高く舞い上がった。と、同時にスティングの青い竜もその後を追って空に舞った。 「刷り込み成功!」 嬉しそうにいい、今度はスティングを見据えた。術をかわされたスティングは何の表情も浮かべずディクスを見上げている。 ――――――― 不気味なやつ・・・ 「あんな竜を受け止めたら衝撃で吹っ飛ぶからな。お仲間を出してかわしてやったよ」 着崩れた服をなおしながら地上に降りる。 「僕もそれを期待していました。でも、あんな避け方があるとは驚きです」 しかしスティングは笑みを浮かべた。 スティングには余裕があった。しかしディクスは圧されっぱなし。攻撃の対処しか出来てないように見えた。 「これは・・・意外にスティングが勝つかもな・・・」 アルバートが腕を組みながら言う。 「意外?兄上、それどういう意味なんですの?もしかして兄上はスティングが勝つと信じてらっしゃらなかったのですか?」 フィオールが怒ったように声を上げる。 「え、あ、そ、そういうわけじゃないんだが・・・」 あいまいにかわす。 「スティングの戦闘能力がここまで高いとは思っていなかったってことだよ」 アルバートはそういった。 「スティング、お前相当本気だろ」 「当たり前ですよ。僕だって負けたくありませんし・・・でも、ディクス」 笑みを急に真剣な顔に帰る。 「・・・なんだ?」 「僕だって本気出してるんです。だからディクスもいい加減に本気出してください」 『えっ』 アルバートとフィオールが声を上げる。 二人の間に冷たい、乾いた風が吹く。 ディクスも周囲も驚いた表情。そしてディクスは軽くため息をついた。 「――――――― なんだ、知ってたのか」 「当たり前です。僕の力の程度を見てたんでしょう?」 怒ったようなスティングの言い方にディクスが決まり悪そうな顔をする。 「まーな・・・」 先ほど傷を負ったほおを手で乱暴にぬぐう。と、手を離したそのときには傷は跡形もなく消えていた。 「殺気無しで本気で戦うことは出来ません。戦いは相手の命をあやめることなんですから・・・」 「・・・・・・・そうかな?」 異様な雰囲気で言ったスティングにディクスが眉をひそめる。 「ディクス!本気を出してください、僕は百二十パーセント・・・いえ、二百パーセントの本気で行きます!」 そうつげ、スティングが剣を振りかざして襲い掛かってきた。 「戦いを司る猛き武竜、我が剣に汝の力を与えよ!」 走りながら詠唱する。その言葉に呼応するようにスティングの剣が光を放ち始めた。 ・・・・・・武器強化の術か・・・ スティングが走るスピードを上げディクスに迫る。 ガチンッ 耳に痛い音が周囲に響く。大きく振りかぶった剣をディクスの細身の剣が一身に受け止めている。 ―――――― くっ・・・二百パーセントの本気ってのは本当らしいな・・・! 腕に感じるわずかな痺れ。しかしディクスは余裕の表情をたたえたまま、その剣を受け流した。 ギィン ざっ 同時にスティングがディクスの背後に回る。 「はっ!!」 ディクスめがけて剣が襲い掛かる!しかしディクスは持ち前の反射神経で体上半身をスティングのほうにそらすとその一撃を手のひらで受け止めた。 受け止めたディクスにスティングが驚く。しかし、その驚きの表情はすぐに冷静なものに変わる。 「武器強化の術をかけているんですが・・・それなのに一瞬で、しかも受け止めるのはさすがですね」 「―――――― 普通のシールドと違って手のひらだけでいいからな。悪いが強化の術をかけても俺のシールドには到底敵わないよ!」 そういうとディクスは手のひらの剣を握り締めた。 ピシピシピシッ 同時にディクスの手から氷の伝手が剣を伝ってスティングに伸びる! 「お前が望むなら俺の本気を見せてやるよ!」 剣を手放して後ろに跳んだスティングにディクスが言い放つ。 ――――――― いよいよ・・・ですね・・・! 剣を伝って感じた冷たさに手がかじかむ。もしすぐに離していなければスティングの手は凍傷を負っていただろう。 一瞬でも気を抜けば大事故に繋がる―――――――― これがディクスの本気の証拠だ。 「ええ、ディクス・・・待っていましたよ!」 構えた手に光球を生み出し、スティングが再び向かってきた。 「光の術じゃたいしたダメージは与えられないぞ!」 いいながらディクスは剣を構え、スティングに向かって走る。それを確認するとスティングは急に立ち止まった。 「怒れる大地よ!―――――― アースブレイクッ!!!」 叫び、手に持っていた光球を大地に叩きつける! ゴゴゴゴゴッドォォォォォッンッ!!! と、同時に大地が隆起する。スティングに向かおうとしていたディクスの行く手をさえぎり、互いに見えなくなってしまった。 ドンドンドンッ リズム良く次々と大地が垂直にそそり立つ。そのたびに円錐のオブジェが出来上がった。 地面に足をつけるたびにそれを交わして後ろに飛ぶディクス。そしてタイミングを計ったところで地面を強く蹴り、一気にスティングの前に躍り出た! 「悪く思うなよっ!!!」 いつの間にか強化の術をかけた剣を垂直にして、真上から飛びかかる! ガツンッ 「―――――――― 」 しかし、垂直に落ちてきたその剣の先。その先をスティングの手のひらは何事もなく受け止めている。 その様子はまるでスティングの手のひらの上の剣を通して、ディクスを支えているようだ。 「―――――― すみません。もう一度パクらせていただきました」 剣をつきたてたままのディクスに微笑む。 「でも、次は新作の術です。立ちふさがりし悪しきものよ・・・・」 「んっ?」 スティングの詠唱にディクスが眉をひそめる。 ・・・・・・この術は・・・ ディクスは危険を察知すると、慌ててそばの隆起した地面を蹴って高く飛んだ。それと同時にスティングの術も完成した! 「空に散り行く塵となれ!!雲散霧消っ!!!」 スティングを中心に半径数十メートルの大地が光る。そして――――― ズガガガガガガッ その光る大地が一瞬にして砕けた。そして隆起していた地面もその影響で砕け、そしてその大きな破片が中にいるディクスを襲う。 「くそっ!」 ドガッ 飛行術に専念していたせいでシールドを張る余裕はない。よけるのももどかしく、ディクスは剣で迫る岩を叩き落した。 「未完成の術があるとか何とか言ってたが・・・まさかこんな術だとはな・・・」 苦々しくつぶやく。一度だけ新作の術の詠唱を聞いたことがあったのだ。そしてそれはディクスの予想通り。 ・・・・・・・・名前のとおりまんま、雲散霧消だな・・・ もしあの時空に向かって飛んでいなければ無数の破片でダメージを受けていただろう。 空に浮かんでいるディクスにも細かい破片が服を、そして肌を傷つけている。スティングの放った術は爆煙を生み出し、周囲が確認できないほどくもっている。 ディクスはその粉塵がおさまるまでその場に滞空していた。 「・・・・・・・・・・」 手を合わせて何かに集中している。それが終わると目を見開いて地上に向かって手のひらを向けた。 「でもな、これが俺にとっての好機なんだよ、スティング!デルタフォースッ」 ブラックフォルスを叩いたときの術。あの時は三地点から光の柱が生まれ、それが敵を砕いた・・・がしかし。 ドォンッ!! ディクスの周囲に三つの柱が生まれ、スティングに向けて放たれた。 「アクアベールッ!アイスショット!!・・・ダークウォールッ!」 間髪いれず術を次々と放つ。驚いたのがギャラリーだ。 氷のつぶてが地面にぶつかろうとした次の瞬間、水の膜があたりを覆い、さらに黒いドームがそれらを包んだ。 「えっ、何っ?」 目の前の出来事にナチが声を上げる。 突然現れた巨大な黒いドーム。ディクスはその上に滞空したままだ。 「まさかとは思うが・・・」 ディクスの放った術にアルバートが気まずそうな顔をする。 「スティング・・・大丈夫かしら・・・」 フィオールは見えなくなった弟を案じるように美しい深緑の瞳を閉じた。 「はあっ、はあっ・・・やっぱり術をかけたりやめたりしてるせいで普段より消耗が激しいな・・・」 空中で前かがみになって大きく息をする。やはり術の連発で疲労が目立つらしい。 「飛行術は術をかける瞬間が一番消耗するってのに・・・」 眼下の黒いドームを見つめる。もし、ディクスの作戦がうまくいけばスティングは恐らく・・・ ドームの中で何は起こっているのかわからない。音も何もしないのだ。 その場の全員が不安げな面持ちで見ている。 「ブレイク!!」 不意にディクスが指を鳴らす。それと同時に黒いドームが消滅した。 「あっ・・・」 そして目の前に出現したものに全員が声を上げる。 黒いシールドが解除されたその後に現れたもの。それはドーム型の氷だった。術で作った水の膜に氷が着弾し、水を凍らせ、結果ドーム型の氷の壁を作り出したのだった。 良く見ればその内部で何かが高速で移動している。ぶつかっては別の方向に飛んでいっているらしい。 「ゼロウェイブッ!」 振動が氷のドームを崩す。すると中から開放されたように三本の光の柱が空に向かって飛んで消えてしまった。 さっきはすごかった粉塵はとうにおさまり、雲散霧消のおかげでそそり立っていた大地の錐も平らになり、軟らかいも見た目には平らな地面に戻っていた。 氷のドームに覆われていたその中心。スティングが片ひざをつき、大きく息をしていた。 「はあっ・・・はあっ・・・」 周囲には聞こえないが、スティングの息は荒い。 こくんっ それでも息を呑むと、ゆっくりと立ち上がった。髪や服は乱れているが、外傷は見受けられない。 「良く頑張ったなスティング!てっきりもうギブアップかと思ったが・・・」 ディクスがようやく地面に降り立つ。そして荒い息のスティング向かってそう言った。 「・・・・・・・・・」 スティングは胸のあたりをつかんだまま地面に目を落としている。 「だいぶ参っているみたいだが。これが・・・最後だっ、お前の術で返してやるよ! 怒れる大地よ!―――――― アースッ・・・ブレイーーークッ!!!」 ディクスが天高く掲げた手にまばゆい光球が生まれる。 ゴゴッドォォォッ そして大地に放つと同時に、スティングに向かって大地の怒りが襲い掛かってきた。 |