D.Force The Third Chapter
Force-7
祭りの後
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「スティング王子!!」 強い口調のレイルに思わず目を瞑る。 ベッドに上半身を起こしたスティングの部屋にレイルがいる。同じくライアもだ。 スティングのお腹は幸せなくらい満腹。幸せな夢が見れそうだと眠りにつこうとしたちょうどそのとき、二人がやってきたのだった。ディクスとナチは良いタイミングで、すでに館へ帰った後だった。 いつもと違ってレイルの表情は険しく、ライアも非常に困惑した様子でスティングを見ている。 「どういうことですか!?クロード氏と戦うとは・・・なんて軽はずみな真似を・・・たいした怪我もなかったから良いようなものですが、万が一をお考えにならなかったのですか?」 アルヴィスからの使者が来ている時に出張していたレイルだったが、それからまたデルタを離れる仕事をこなさねばならなかったのだ。当然スティングから特例のことも、それでディクスと戦うなどとは一切聞いていない。 ライアもつい先ほどその事実を知ったくらいだ。 「レイルの言うとおりです。王子に何かあったらそれこそ一大事。国王とて黙っていられませんよ」 心配そうに言う。 「・・・・・・国王に似られて好奇心旺盛なのは分かります・・・しかし、ご自分の立場をお考えください!」 「・・・・・・はい・・・」 かんかんに怒っているレイルにスティングは素直にうなずいたのだった。 「ブラックフォルスの件でも、私もライアもどれだけ寿命を縮めたかおわかりですか?部屋でとどまっているもやしよりもマシですが、もっとご自分を大事になさってください!」 ―――――― もやし・・・ 少なくとも部屋にこもりっきりのもやしではないことに安堵する。 「いいですね?」 迫るレイルにスティングはぶんぶん首を縦に振る。 それを確認するとレイルとライアは部屋を出て行ってしまった。 がちゃっ 「はぁ・・・それにしてもアルバート様もなんという特例を・・・」 部屋を出てすぐ、レイルはため息をついた。それにライアがくすっと笑う。 「笑い事ではないぞ、ライア!」 「ごめんなさい・・・でも、王子はクロードさんと本気で戦いたかったのでしょうね。術者なら、強い者と手を合わせたいと思うのは当然でしょう」 「それはそうだが。しかし、困ったものだ。アルバート様も王子も、国王の血を脈々と受け継いでおられる・・・」 首を振る。察するに国王も相当好奇心旺盛らしい。蛙の子はカエルとはまさにこのことだ。 「この前も宮殿を抜けられたようですしね・・・」 つぶやいたライアにレイルがばっと顔を向ける。 「―――――― ご存知でなかった・・・?」 ライアがちょっとやばかったかという表情をする。するとレイルががくっと首を落とす。 「・・・・・・アイツにちゃんと言っておかねば・・・従者が連れ出してどうする!?」 そういうとずんずん歩き出してしまった。 「れ、レイル殿・・・!?」 「ライア、お前はもういい。私は・・・アイツに従者としての心得を叩き込んでくる・・・」 静かに・・・だが、怒っているのは目に見えて分かった。 「―――――― 」 結局言葉をかけることもなく、立ち尽くしたライアを残してレイルは行ってしまったのだった。 カチンッ! ビールのジョッキと、フレッシュジュースのグラスを重ねる音が響く。 ごくごく・・・ 「くはーっ!」 のどを鳴らすように飲むと、思い切り息をつく。 「マスターの称号取得おめでとう〜!」 キンキンに冷えたビールをくーっと飲んだディクスにナチが手を叩いて祝う。 スティングの部屋を去った後、何も口にしなかったのだが、夜が遅くなるにつれて小腹が空き出したのだ。マスターの称号取得確定ということもあり、ディクスとナチはデルタの酒屋で一杯やることにしたのだった。 「お疲れ様ね〜!」 ディクスの半分になったジョッキにもう一度自分のグラスを重ねた。そしてフレッシュジュースを飲む。 「なんか・・・長かったような短かったような一日だったなー。特例を言い渡されたこの一週間はあっという間だったけどさ」 「そうだねー。午前中はぼろぼろだったくせにちょっと回復したら料理始めて、今は酒場にいるしね」 半分呆れ気味だが、その顔は笑っている。 「やりたいことはすぐに実行だからな。はー、ビールがうまい・・・」 そしてさらに半分飲んでしまった。 「エイブルさんと戦った時は散々だったのにね。もしディクスが眠り込むようならまたかぼちゃの煮付け作ってあげようと思ったのに・・・」 「エイブルさんの時は・・・あの時は大技も大技使ったからなぁ。消耗は今日の比じゃないよ」 「そう言えばそうだったね。最後は剣で決着をつけたくらいだし」 「スティングも相当消耗してるの分かってたからな。だから同じ剣で決着したんだ・・・それで見事腰にひじ打ち食らったけどな」 そう言って、もう痛みの消えた腰を叩く。 「でも二人とも本気だったよね!わたしびっくりしちゃった。ディクスがスティングに剣を振り下ろした時とか・・・防御できたから良かったようなものの、もしそうじゃなかったらって思うと背筋がぞくぞくする」 二人の攻撃は本気だった。まともに食らえば無事ではすまない。むしろ、死に至るには十分な威力だった。 「そりゃあもちろん、俺もスティングもお互いの実力を信じてるからな。あいつだったらこれくらいは防ぐ!・・・って、分かってるからこそ思い切り攻撃できたんだし。俺も気持ちいいくらい全力でやらせてもらったよ」 「へぇ〜、男の友情ってやつ?」 ナチが図星でしょ?とでも言うように、グラスをディクスのほうに傾けた。 「旅の仲間だろー?」 そういって今度はディクスがジョッキをナチのほうに傾ける。 「スティングの本気も見れてちょっと得した感じ。いつもは温和なイメージじゃない?っていうか、まんまなんだけど・・・クールな感じのスティングも見ごたえあったなぁ」 小さな皿に盛られた焼き鳥をほおばる。やはり術よりも炭火で焼いたほうが香ばしくて美味い。 「俺を挑発がてらだったんだろうな。"自分も本気出すからそっちもだせ!"みたいな。特例を言い渡された時もそんな感じだったしな」 ねぎ間を手にする。すると横に両手で持ち、先にねぎだけを食べてしまった。 「―――――― でも、戦闘でクールとはいえ、やっぱり温和だよ、あいつは」 ・・・・・・ミーハーな女が"きゃ〜!"って言いそうな甘いマスクとおいしい地位も加えてな・・・ 心の中で付け加え、そして、残った鶏肉をおいしそうに食べた。 「・・・どうでもいいけど・・・その食べ方どうにかならないの・・・?」 上から食べないディクスの奇妙な食べ方にナチがジト目で見ている。いつもそうだった。鶏肉とねぎが交互に串刺しにされた焼き鳥の定番、ねぎ間はいつもこうやって食べるのだ。 「こういうねぎの食べ方は好きじゃない。それに鶏肉だけの焼き鳥、お前今さっき食べただろ!」 串をナチに向けて言う。悔しかったらしい。 「えーっ、だって甘ダレがついてる焼き鳥より、こしょうでシンプルに焼いたほうが好きかと思ったんだもん」 「おーれーはねぎがついてるほうよりそっちのほうが好きなのにーっ!」 酒が回ってきたのか、ディクスはまだ手に持ったままの串を振り、ジョッキの口でカンカン鳴らしている。 ナチはここがどんな変人も認められる酒場であることに感謝した。 「はい、子供じゃないんだからわがまま言わないでね〜」 言いながらディクスから串を取り上げる。手持ち草他になってしまったディクスは残り少ないビールを見せ付けるようにあおり、そしてカラにしてしまった。 「別のやつ頼もうか?」 ナチが訊くとディクスはうなずいた。するとナチは手を上げて向こうの店員に向かって声を上げた。 「すみませーん!こっちのテーブル、ビールジョッキ一杯と、シーフードのクリームスープお願いします〜!あ、あと焼き鳥のセットも!」 「ちゃっかりしてるなー、お前・・・」 「外は寒いからねー。ここのクリームスープ美味しいんだよ〜」 カタン ディクスは持っていたカラのジョッキをテーブルに置いた。 「へぇ・・・俺の作るスープよりもか・・・」 急に冷たくなったディクスの声。無表情のディクスの瞳の奥が光っているような気がした。もし、イエスといえば、必殺"ちゃぶ台返し"がナチを襲うだろう。 しかしここは付き合いの長い妹、酔っ払いの兄への対処方法は心得ている。 「そんな〜!ディクスに勝てるわけないじゃない〜!わたしディクスのスープすごく好きだもん。超絶品!」 にっこり笑って褒めちぎる。単純な兄にはほめ殺しがよく効くのだ。 何かあったらほめ殺し。これが勝利の方程式である。 「そ、そうか・・・?照れるな・・・」 などといってディクスは照れた。照れてもらわねば困るのだ。ちゃぶ台返しは周囲に迷惑がかかる。 ちなみに酒の入ったディクスにはいくつかのモードがある。しかもころころ変わるのだ。 さっきのは嫉妬モード。ほかにも意気消沈モードや号泣モード、説教モードなど多岐にわたる。出現確率はかなり低いが、インテリモードや二枚目モードといった、通常のディクスらしからぬものも存在する。 さらに相当な低確率で思いやりモードも存在するのだ。また、泥酔時のフィナーレを飾るのは爆睡モードだ。 「ってなわけで、もう一度乾杯ね」 早速来たビールジョッキをディクスに渡し、自分のグラスと重ねた。 ナチはちょっとだけ口にしてから、待っていたスープに手を伸ばした。木製のスプーンを手に取り、魚介類たっぷりの具沢山スープを堪能する。 ――――― んーっ!やっぱり美味し〜い! 口には出さない。それを聞かれればディクスは即号泣モードに突入すること確率高し!だからだ。 この冬という季節に温かいスープは極上品だと、ナチが堪能しているその時だ。 ばしっ! いきなりディクスが前につんのめる。 「また会ったな!!!」 ディクスの肩をばしっと叩く影が。反射的に振り返る。そしてそこにいたのは―――――― 「い、イルク・・・」 おごるという言葉に乗せられ、酒をがんがん飲まされたあのイルクだった。 しかし今日は付き添いのアーネスはいない。 がたんっ 断りも訊かず、イルクは隣の椅子に座った。それを呆然と見ているディクス。また飲まされると思っているらしい。 ナチもやばそうな顔をしている。泥酔のディクスを介抱するのは嫌なのだ。 「この前は付きあわせて悪かったな!しかし・・・まだまだ若いのにあの程度で泥酔するとは。酒は飲んでも飲まれるな!だ。おーい、こっちにウィスキー持ってきてくれー!」 イルクは近くの店員に手を上げて注文する。そしてその様子をジト目で見ているディクスに気づく。 「まあまあ。この前は私も上機嫌で、君にだいぶ無理をさせたようだが・・・だが、今日は大丈夫だ!無理には飲ませないから安心しなさい!」 そう言って笑った。どうもこのイルクは酒が入っていようとなかろうと、元々テンションが非常に高い人物らしい。 長身の細身で、紳士的な外見を裏切ってくれる性格のようだ。 「――――――― 私・・・?」 ディクスがつぶやくように言った言葉にイルクが気まずそうな顔をする。しかし、イルクはすぐに笑みに変えた。 「はははっ!宮殿では"わし"などとは言えぬからな。その癖が抜けてないようだな」 「あの・・・イルクさんって宮殿のどこで働いてらっしゃるんですか?」 見ていたナチが話しかける。ちょうど店員の持ってきたウィスキーを手に、イルクは話し始めた。 「上層部・・・としか言えぬな。まあ、二人には大酒のみの中年にしか見えないと思うが、一応これでも高い地位にいるのだぞ―――――――― まあ、望んだことではないがな・・・」 最後の一言を少し声のトーンを低くして言う。何か訳ありのようだ。 「ご、ごめんなさい・・・!エリオスさんにイルクさんのこと訊いた時、知らないみたいだったから・・・」 悪い事を訊いてしまったのではないかとナチは弁解する。 「ははは!そうか。それはそうかもしれぬな。会うこともそうはないからな・・・まあ、宮殿の話はいいじゃないか!ところでディクス。今日はスティングと戦ったのではなかったか?」 イルクの突然の質問にビールを噴き出す。 「ディクス!!」 ナチが怒りながら台拭きで汚れたところを拭く。 「・・・なんで、そのことを?」 「この前この酒場で話してただろうに。隣の席にいたからな。ばっちり聞こえたというわけだ。スティングも優秀な術者だからなー、気になっておったのだ。まあ、聞けばディクスが勝ったということだが、どういう戦いだったのか詳しく教えてもらえぬか?同じ術者として非常に興味あるからな」 促されたディクス。酒の入ったディクスが語りモードに入ったのは言うまでもない。 そして爆睡モードに入ったディクスをナチが術で吹き飛ばし、特例の一日は終わったのだった。 ディクスはソファの上でうつぶせになっていた。 レクサスやセフィーロ。そしていつもは無視されるアクオスまでもその様子を珍しそうに眺めている。傍から見ると、三頭の竜に今にも食われそうな捕らわれた人間の図、だ。 「――――――― 頼む・・・寝かせてくれ・・・」 自分の部屋で寝ればいいのだが、一階のソファに寝そべっている。しかも玄関のすぐそばだ。 昨夜爆睡モードに入った直後、ディクスはナチに術で吹き飛ばされた。その衝撃でさすがのディクスも起きることとなったのだが、吹き飛ばされた時に強く叩きつけられたせいであちこち体を痛めてしまった。 それを術で治そうとしたのがよくなかったのだ。睡眠前の治癒系の術の発動は、脳の活性化により寝つきが悪くなる。酒が入っていたはずなのに、そのせいでほとんど眠れなかったのだ。 昼前ではあったが、いよいよ睡魔が襲ってきた心地よい瞬間―――――― ディクスが吸い込まれそうな感覚に身を任せた時だった。 「ディクス、このお菓子・・・」 厨房から出てきたナチ。しかし、ソファの上で冷凍マグロのごとく微動だにしないディクスに気づき、言いやめる。 そして起こさぬようにそーっと近づいた。 セカンダリたちをおさえて顔を覗き込む。口をぽかっと開けて幸せそう寝ている。 それを確認すると、音を立てないように静かに離れた。ナチにあわせてセフィーロとアクオスも離れる。レクサスはソファのすぐ横のスペースに移ると、身を伏せた。 再び厨房に戻ったナチ。それから一時間して再び出てきた。 厨房の戸を開けると同時に広がる芳しい香り。鼻の効く三頭のセカンダリたちもいっせいに顔を向ける。ディクスの隣で寝ていたレクサスも起きてナチのそばに寄った。 「一個ずつあげるからね」 ナチが箱を開けてセカンダリの口にそれぞれ入れてやる。小さなそれを、大きな口の中で一生懸命転がし、少しでもその風味を味わおうと三頭とも必死だ。 「・・・・・・レクサス、わたしちょっと行ってくる所あるから。これディクスに渡しててくれる?」 そういってレクサスに紙切れをくわえさせた。 「じゃあ皆おとなしくしてるのよ」 そういうとナチは箱を持って館を離れた。 ひゅぅっ 冷たい強い風が襲ってくる。 「うー、寒い〜!」 昨日の天気とは一転して曇り空。冷たい風が吹き荒れ、今にも雨が降ってきそうだ。 ともあれ、ナチは宮殿のほうへと急いだ。 アルヴィスの件で仕事をしたせいもあるのか、前と違い、宮殿の中を自由に行き来できるようになっていた。いつも使っている入り口の警備兵に挨拶をし、中に入る。 「多分、いるよね・・・」 扉の前でつぶやく。そして扉を叩いた。 がちゃっ すぐに扉は開いた。そして顔をのぞかせたのはスティングだ。 「ナチ!来てくれたんですか?」 「うん!ちょっとお菓子作ってみたの。食べてくれるかなって」 そして箱の中身を見せた。 「これは・・・フロランタンですね」 アーモンドの香ばしいにおいがする。 「そう、フロランタン。またディクスのお菓子の本借りたんだけど、前に食べたのが美味しかったから。食べない?」 「もちろんです!」 訊いたナチに、スティングは嬉しそうに答えた。 「イルク・・・ですか・・・」 その名前に思いをめぐらす。しかし引っかかるような記憶はなかった。 「思い出せない?その人が言うには宮殿の上層部の人間だって言ってたんだけど・・・」 「上層部ですか・・・逆に下層部だと分からないんですが。上層部ならほぼ全員知ってるはずなんですけどね。うーん、ミドルネームかもしれません・・・」 思い当たらない名前にスティングも困惑している。 「あ、別にいいのよ、そんなに深刻にならなくても。エリオスさんも知らないって言ってたくらいだから」 「どんな容姿でした?」 「えーとね、細身で背は高かったの。歳は四十から五十くらいで、髪の色は金だったわ。目の色は青・・・だったかな。見た目はそんな感じで紳士的なんだけど、でも、しゃべったら歳相応じゃないからギャップは感じたわねー。もしかしたら外見と違って歳はもっと行ってるかも」 「五十前後・・・ですか。金髪碧眼の細身・・・うーん、ますます分からなくなってきました・・・」 そう言ってフロランタンを食べる。 クッキーにしては硬い食感と、アーモンドの香ばしさが売りの菓子だ。 「わたしの術がもっと上達できればスティングに術で見せてあげられるんだけど・・・」 ナチが手のひらでイルクを映像化しようと錯誤している。しかし、うまくいかないようだ。 「――――――― 自分で想像したものなら簡単なんだけど・・・見たものを映像化するのって難しいね」 苦笑した。 「レイルやライアのほうが詳しいでしょうから、後で聞いてみますね」 「うん、お願いね」 ナチも手元の菓子を口にした。口からこぼれそうになったくずを慌てて手で受け止める。 「ナチもさすがディクスの妹ですね、このお菓子も、昨日の中華料理もとても美味しいですよ」 「ほんと?そう言ってくれると嬉しい!ディクスも料理をほめるとすごく嬉しそうにしてるけど、その気持ちすごく分かるなぁ。やっぱりほめてもらえると次も頑張ろうって思っちゃうもんね」 「次も期待してますね」 言ったスティングにナチはうなずいた。 「ねえねえ、マスターの称号の認定式っていつ?」 「認定式ですか・・・えーと、確か五日後だったと思います。ちょうどこの前試験があったんですよ。発表が式典の二日前なんです。特例を言い渡した部屋がありましたよね。あれよりも一回り大きなものですが、同じような部屋で認定式と授与式が行われます。マスターの称号授与式は一大行事なんですよ」 ――――――― 父上に久々に会えるかもしれない・・・ スティングの父親、つまりエンドレスの国王がマスターの称号を授与するのだ。国の王から直接称号を手渡されるというのは非常に名誉なことである。 最後に会ったのはいつだったか思い出せないほど顔をあわせていない。今まで何回か授与式があったのだが、スティングは一度も出たことがなかったのだ。 「アルバートさんにね、ディクスは院を開設してからの最短の取得者になるだろうって言われたことがあったの。その時はまさかそんなことないだろうって思ってたんだけど、実際にそうなっちゃったからちょっとびっくり」 「僕はもちろんですけど、兄上もディクスの力は認めてますから。でも、マスターの称号を取得できたらもっと自由にフォースのこと調べられますね」 「うん。今はこのデルタで調査を進めてるけど・・・」 そこで一度区切る。 「けど、マスターの称号を取得したら、もしかしたらデルタを離れるかもしれない・・・」 手に持っていた紅茶をテーブルに置く。手に感じていた温かさはすぐに消えてしまった。 「ずっとデルタで調べてるけど、ディクスがフォースを扱える理由は一切載ってなくて。わたしも調べてるんだけど、"お前は術に専念しろ"って、あまり参加させてもらえないの。唯一の手がかりのデルタでも、こう、資料がないとディクスも焦ってるみたい」 「・・・・・・すみません、力になれなくて・・・」 「違うの!スティングには本当に感謝してるわ!スティングのおかげで普通は見せてもらえないような資料だって見れたし・・・それに、特例だってスティングのお兄さんがくれたからマスターの称号もらえたようなものだし。本当に感謝してるんだよ?」 ナチが慌てて言う。 もし、スティングがいなければ、機密の本の閲覧も、そしてマスターの短期取得もなかっただろう。 「でも、ディクスはどこに行くつもりでしょうか。デルタ以外の場所となると・・・」 「―――――――― 北エンドレスかな・・・」 ナチはそうつぶやいた。 |