D.Force The Fourth Chapter
Force-1
真実への序章
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だから全てをリセットした 全てを新たに始める為に・・・・・・ あり得ない。あり得ない光景が目の前に広がっていた。 確かにさっきまでは錯乱気味ではあった。彼にしてはいやに作業時間が短いとは思った。 だが―――――― レトルトだ・・・これ、ミートスパゲティのレトルトだ・・・・・・! 目の前に出された何の変哲も無いただのミートスパゲティ。 この変哲の無さがレトルトであることを証明していた。 あのディクスが。 家事全般はお任せのあの男が。 まさか、レトルトの夕食を出してくるとは、ナチもスティングもさっきの出来事よりも衝撃的だった。 「い、頂きます・・・」 ややぎこちなく、ナチはスパゲティを口にした。 いつものまろやかさは無い。安っぽい酸味と、少ない肉の絡まったスパゲティがナチの舌を刺激した。 スティングも同じだ。ぎこちない笑みを浮かべ、スパゲティを口にしている。 「・・・・・・」 そして、無言でフォークを進めているディクス。 いつもなら"味が変わるからかけすぎるな!"と、ナチに注意するはずの粉チーズを、大量に自分の皿にかけていた。 「ディクス・・・」 緊張した面持ちでナチが呼ぶ。 「―――――― ん・・・?」 「きょ、今日の料理はシンプルね。いつもだったらすごく凝ってるのに。やっぱりディクスの作った料理のほうが美味しいわ」 苦笑した表情で言うが、ディクスは少し怪訝な表情をしただけだった。 そして・・・ 「これも美味いじゃないか」 ディクスはフォークに絡ませたレトルトスパゲティを掲げ、端的に言った。 有り得――――― んっ!!! ナチとスティングが心の中で絶叫する。あろう事か、ディクスはこのスパゲティを美味しいと称賛したのだ。 自分が作った料理以外を決して褒めないディクスが、だ。 おかしい・・・おかしすぎる。一体ディクスはどうしてしまったのか。 さっきの一連の行動に関係があるのか?それとも、このディクスはディクスじゃないのか・・・? ナチとスティングが、ディクスを凝視しているが、ディクスはそんな二人に気にも留めず、もくもくと料理を平らげている。 「スティング・・・わたし、夢見てるのかな?」 「二人が同じ夢見てるって事ですかね・・・」 ポツリと呟いたナチに、スティングは呆然と答えたのだった。 かたんっ 暗い外に続く窓を開ける。冷たい風が部屋を巡った。 ディクスの金色の髪も風に揺れた。 「・・・・・・」 暗がりをにらみつけるように目を細めた。 ―――――― どうしたんだ・・・俺 同じ疑問が巡る。 昨日はいきなり倒れたし、今日は今日であんな事に・・・ やはり倒れた時に頭でも打って調子を悪くしているのだろうか。 でも、それで急に記憶を失ったり、ナチをナチと認識できなかったりする事などあるのだろうか。 分からない事ばかりだった。 あの時、頭の中にフラッシュバックした光景も見覚えがなかった。なのにどうしてあんなに鮮明に、まるで思い出されるかのように映されたのだろう? 考えれば考えるほど深みにはまって疑問が深まるばかり。 「疲れてんのかな」 自分でも気付かないうちにストレスを受けていて、それが今日みたいなことに繋がっているのではないかと考えてみる。 「俺って繊細だし」 誰もいないのに納得するように呟く。 「やっぱりあれだよな。料理でストレス発散」 がちゃっ 窓を閉め、鍵をかける。暗い外と遮断するようにカーテンを閉めた。 「それにしても、今日、何でレトルトなんか使ったんだろう?それに、この俺がおいしいだなんて・・・。舌までおかしくなったのか?」 ベッドに掛け、腕を組んで首をひねった。 正直、あまり作る気がしなかった。だからといってレトルトに走るなんて、最悪の事態だ。 ディクスはいまさら自己嫌悪に陥っていた。 「まー、考えても仕方ないか。たまにはこんなこともあるさ。長い人生だしな」 立ち直りの早さだけは健在のようだ。大きく背伸びをしてあくびを一つする。 時計に目をやればもう十二時前だ。 「寝るとしますかね」 そして、明かりを消そうと立ち上がった時だった。 こんこん 部屋の扉を叩く音。確認するまでもない、ナチだ。 「ディクス」 ドアの向こうから小さな声が聞こえた。 「あー、いいよ。入ってきて」 こんな時間に珍しいとは思いつつも、ディクスはいつもの調子で了解した。扉がゆっくり開き、ナチがそろそろと入ってきた。 何かあったのか、暗い、困惑したような表情。 「こんな時間に珍しいな。恐い夢でも見たか?」 意地悪っぽく言うディクスに、ナチは首を振った。 「違うんだけど」 なんだか落ち着かないようだ。ディクスと目を合わせないように視線を忙しく動かしている。 「―――――- 仕方ないなぁー、今日は特別だぞ。はい、どうぞ」 そう言うと、ディクスはベッドをぽんぽんっと叩き、照れたように言った。 意味がわからず一瞬きょとんとしたナチだったが、ディクスが言わんとしている事がわかると激しく抗議した。 「誰が添い寝してくれって言ってるってのよ!勝手に勘違いしないでよね、馬鹿兄貴!」 「お前がさっさと用件言わないから俺が和ませてやってるんだろうが。ほら、なんだよ」 あくびをかみ締め、目の端に溜まった涙を拭った。 顔を真っ赤にして怒ったナチだったが、その表情はすぐにさっきと同じ、困惑したものに戻る。 そして、やはりディクスから視線をはずしていた。 「だって、ディクスが今日変だったから・・・」 呟くように言った。ディクスは一瞬真顔になるが、すぐにおどけたものに変わる。 「いつも変人扱いしてるから何もおかしい事ないだろうが。トリップはいつもの事だって、お前よく言うだろ?」 わざとらしく肩をすくめ、困惑したように言うと、ナチはさっきよりも首を強く振って否定した。 「でも今日は違ったじゃない!トリップとかそういうのじゃなくて・・・ディクスじゃないような、そんな感じがしたの」 自分の手に視線を落とし、ナチは言った。ディクスは一瞬驚いたような顔でナチを見た。 「それに、ディクスのトリップって、お花畑が見えたり、どっかの誰かと論争してたりとか、現実逃避ばかりだったし、それに、絶対わたしが分からないだなんて事なかった」 「現実逃避兄貴で悪かったな・・・」 ぼそっと言う。 「現実逃避だったらまだ良いわ。でも、わたし最近頭から離れない事があるの」 「ふーん・・・」 あまり気乗りしていないディクスをとがめず、ナチは続けた。 「スティングには言ったんだけど、これから先、皆がばらばらになってしまうんじゃないかって思うんだけど」 「ばらばら・・・?」 「だから、ディクスやスティングやわたしが離れ離れになって二度と会えないんじゃないかって事。どうしてだか強くそう思うの。もしかして、その前兆が今日のディクスじゃないかって思ったら、いてもたってもいられなくて・・・」 「そんな馬鹿な。言っとくけど、嫌がられても俺はお前にくっついて行くからな」 「うん・・・」 珍しく返事をしたナチにディクスは内心仰天する。 「大丈夫だって!俺だってなんともないし、スティングだって結局はスティングだっただろう?悪かったな。今日はまずい夕飯で。明日はゴージャズ絶品料理にするからさ。元気出せよ」 笑ったディクスにナチもわずかに笑みを返す。 「後一つ言っておきたい事があるんだけど」 「うん?」 「最近、若年でもアルツハイマーの兆候が表れる人がいるんだって。・・・ディクスも気をつけてね」 やや間を空け、ナチは言った。 若年性のアルツハイマー・・・・・・!!! 笑みを張り付かせたままディクスは固まった。 「じゃあ、おやすみなさい。寝る前に邪魔してごめんね」 そしてナチは部屋から出て行ってしまった。白くなっているディクスを残して。 「今日の俺はアルツハイマーゆえ?」 ナチが出て行ってしまった扉を見続け、ディクスは呆然としている。 「若年性って・・・」 ぞわっ 肌があわ立つ。 その夜、ディクスはナチに"ご飯さっき食べたでしょ!"と、何度も言われている夢を見た。 「ん・・・うー・・・っん・・・」 ぼんやりとする頭で目をうっすらと開ける。見えたのはまだ暗がりの部屋だった。 寝返りを打ち、壁に顔を向ける。そして硬く目を瞑るが・・・ 「―――――― ?」 ぼやけた意識が一瞬にして覚める。 反射的に身を起こし、部屋のドアに目をやる。 ・・・・・・これは・・・ ナチはベッドから降りると、まだ薄暗いホールに下りた。 間違いない。ナチは確信を得ると、冷たいドアのノブに手をかける。 ギィッ ドアが開くと同時に、ナチを襲うもの。それは・・・ 「すごい匂い。こんな朝早くから何やってるの・・・?」 呆れたように言うナチ。 「おー、珍しい!早いな」 濃いソースの香りがナチを刺激する。厨房から漏れた香りはナチの部屋へ運ばれ、ナチを起こすきっかけになった。かぐわしい匂いは熟睡中のナチを起こすのに十分だったようだ。 パジャマのまま、ナチはディクスに寄る。 「良い匂いだろ?まだ煮込み中だから。今日の夕方には野菜のうまみエキスが完全に溶け込んで最高に美味いぞ!」 大きな鍋の中をかき回しながらディクスは嬉しそうだ。 「夕方?もしかして、こんな朝早くから夕飯作ってるの?」 「朝ごはん作ってから昼ごはん作って、それから始めたぞ」 「別に作る順番はどうでも良いんだけど・・・」 ナチはあくびをする。まだ六時前だ。早すぎる。 「眠いならまだ寝てろよ。時間になったら起こしてやるから」 「大丈夫よ、自分で起きるから」 「遠慮するなって。お前の大好きなお兄ちゃんが優しく起こしてやるから」 満面の笑みでディクスは誇らしげに言う。だがナチは眉をひそめ、首をかしげた。 「ジョージお兄ちゃんが起こしてくれるの?」 「えっ・・・!」 顔を引きつらせてディクスの手が止まった。 「ジョージ・・・?」 ディクスが言うと、ナチはうなずいた。 「お前の一番はジョージなのか・・・?」 再びうなずくナチ。同時に固まるディクス。そして生まれる沈黙。 「うふふっ、ナチったら恥ずかしがり屋さん!」 半泣き笑いしているディクスが悲しかった。ナチは頭を抱える。 ―――――― 昨日の心配は一体なんだったんだろう・・・やっぱりディクスはディクスだったわ 「大丈夫だって。まだ"余地"はあるから」 余地―――――― それは、ディクスがジョージよりナチに好かれる可能性。 「お兄ちゃんはめげないぞ・・・!」 再びディクスに笑顔が戻る。鍋をかき混ぜる手つきもリズミカルだ。 でも、目の端にわずかに光る涙をナチは見逃さなかった。 トリップ寸前と言ったところだ。 「・・・じゃあ、わたし寝直すわ。もし、寝過ごしてたら起こしに来てね」 大きなあくびをし、ナチは厨房を去った。 ディクスは時計に目をやった。現在の時刻五時四十七分。 ナチの起床時刻まで一時間十三分。 ディクスの口元がにやりと笑う。ディクスはその時計を五分進めた。 五時五十二分。 これでタイムリミットまで一時間七分まで縮んだ。けれど、ナチの部屋にある、正確な時を刻む時計は五時四十七分のまま。 五分の差は立派な寝過ごしだ・・・! ディクスは何が何でも起こしに行こうと決めていた。厨房の時計をわざと狂わせてまで。 "厨房の時計が五分早かったんだな(笑)" そう、白々しく言えば怒られまい。 「待ってろよ、ナチ・・・!」 どうやら仕返しをするつもりのようだ。 ディクスは不敵な笑みを漏らしつつ、鍋をかき回した。 何度時計を見遣ったか分からない。 ディクスは秒針を凝視していた。 あと三十秒・・・二十秒・・・十秒・・・四秒・・・そして・・・ かちっ 長針、短針、秒針の三つが動き、ちょうど七時を指す。 ディクスは大急ぎでナチの部屋に向かう。まだ五分は余裕はある。ナチは寝ているはずだ・・・! そう思いながら、ドアに耳をそばだてた。 物音はしない。 ナチの驚く顔を想像すると、ディクスに再び不敵な笑みがこぼれた。 ドアのノブに手をかける。 息をすぅっと溜め、勢い良くドアを開けた! 「起きろ、ナチーッ!!!!」 大音量でいきなり入ってきたディクス。 だが、次の瞬間・・・ 「死ねーっ!!!」 ドシュッ! 「ぐはっ!」 ディクスは腹に叩きこまれた空気の塊に吹き飛ばされ、廊下の手すりに思い切り叩きつけられた。 「はぁっ、はぁっ・・・!」 息遣い荒いナチ。ドアの向こうに消えたディクスをにらんでいる。 ・・・な、なんで・・・? 朦朧とした意識の中、不測の事態にディクスは頭を垂れた。 「覗き見なんて・・・最低っ!!」 ナチは着替え中だった。 「笑うなぁぁっ!」 ばきっ 「痛っ!」 爆笑しているスティングにディクスが一撃する。それでもスティングは笑っていた。腹を抱え、笑い泣き状態だ。 「だって、おかしくて・・・!」 ディクスの覗き見事件を聞き、スティングは笑いのツボにはまったようだ。 ディクスが怒っているのを無視し、ひたすら笑っている。 「わざわざ時計を狂わせてまでナチを驚かそうとするなんて。しかも、実は早く起きていたナチの着替え現場に遭遇して術をお見舞いされたなんて、笑いの要素満載じゃないですか!」 だが、それで納得いくはずがない。ディクスはスティングをにらんでいる。 「うるさい!俺だってそんなの予定外だ!大体あいつが七時までちゃんと寝てなかったから・・・」 「いやぁ、面白すぎですよ、ディクス」 「俺は面白くねぇよ!それに、本当にドア開けたらすぐに術で弾かれたからな。ナチが着替えてるのを見ていないし、なんでそうなったのかもわかんなかったよ、最初。呆然としてたらかんかんに怒ったナチが来て・・・」 「覗き魔扱いされたんですね?」 「・・・・・・」 無言のディクス。無反応のディクスを見てスティングに再び笑いの衝撃が走る。 「笑うなぁぁっ!」 ディクスの絶叫が館に響いた。 「レクサス、変態ディクスが帰ってきたわよ」 いつもの買い物から帰ってきたディクスに、ナチが冷たく言う。 「だから悪かったって!それに俺、何も見てないって」 何度も同じように否定するも、ナチはつんとして相手にはしてくれなかった。昨夜のあのしおらしさはいったいどこに行ってしまったのかと、ディクスは嘆いた。 買い物袋を下げたまま、重い足取りでナチのそばを通り過ぎる。ナチはディクスに目もくれず、立ち上がった。 「さあ、みんな!外に出て術の練習しよう?」 呼びかけると、三頭のセカンダリたちは嬉しそうに鳴き、 ディクスを無視し、ナチはセカンダリの三頭を連れて館から出て行ってしまった。 そんなナチの後姿を見、ディクスは短く息をついた。 「はーぁ、女の子ってのは難しいな・・・」 ぶつぶつ文句を言いながら、ディクスの絶対聖域、厨房に足を運んだ。 大きな鍋の蓋を取り、中を覗き込む。 「ま、こんなもんかな」 中をかき混ぜ、味見をしたディクスはうなずいた。 この鍋だけではなく、厨房にはたくさんの鍋やフライパンなどが所狭しと置かれていた。そのすべてにはディクスの得意料理が。 朝から作り続けた結果である。 「俺って天才?」 見渡し、満足そうに言う。 「これならレストランも開けるな」 うふふと一人で笑み、ディクスは愛用のエプロンを身に着けると再び料理に没頭し始めた。 ディクスが料理に現を抜かしている一方で、ナチは館の外でセカンダリたちと戯れていた。 「すごい、アクオス!火の術を使いこなせるようになったのね」 アクオスの腹の辺りで揺らめいている火の術を見、ナチが歓声を上げる。褒められている事がわかるのだろう。アクオスは得意げに火の術を変化させ、自在に操っていた。 レクサスも褒めて欲しいのだろう。 ごぽっ 水の生まれる音とともに、レクサスの前に水が出現する。アクオスと同じように形を変え、日の光にきらめいていた。 「レクサスももう大丈夫ね。これだけ自在に操れば大丈夫よ」 ナチが嬉しそうに言う。 そして最後の一頭、セフィーロ。セフィーロは何も生み出さずに地面を凝視している。 「セフィーロは・・・」 セフィーロもきっと褒めて欲しくて苦手だった術を披露してくれるだろう。期待しながらセフィーロに目をむけ・・・ナチは固まった。 ―――――― しまった! セフィーロの凝視している地面がわずかに盛り上がる。 「駄目!セフィーロ・・・!」 だが、一瞬遅かった。 どぉぉぉぉんっ 土柱が天高く聳え立つ。そう、セフィーロの不得意とする術によって・・・ ナチがそれを見上げる。その表情は引きつっていた。 土柱がゆっくりと崩れだす。そしてぱらぱらとあたりに舞い落ちた。 土が大きな目に入ったのだろう。レクサスもアクオスも目を硬く閉じ、痛みから逃れようともがいている。 一方のセフィーロは得意そうだった。自分の不得意な土の術・・・つまり、地面爆発系の術を披露できたと胸を張っているように見える。 ナチも当然土まみれだ。呆然と立ち尽くしている。 クゥゥゥ・・・ 早く褒めてくれとばかりに甘えた声を出し、セフィーロが擦り寄るが・・・ 「セフィーローッ!!」 ナチが声を張り上げる。驚いてセフィーロは頭を低くした。 「爆発系の術はむやみに使ったら駄目って、あれだけ言ったでしょう!?」 セフィーロの口の辺りを両手でがっちりつかみ、正面に向き直らせてナチが叱咤する。 予想外がショックだったのだろう。セフィーロは瞬きもせず目を見開いている。 しばらくナチが黙ってそうしていると、セフィーロの大きな瞳からぽろぽろと涙がこぼれ始めた。それでも瞬きをせず、セフィーロはじっとしていた。 「でも・・・」 やはり両手でがっちりつかんだまま、ナチが言った。 「術が使えるようになったのは褒めるわ。本当にがんばったわね、セフィーロ」 さっきとは打って変わった優しい声。表情にも笑みがこぼれる。 「よしよし」 手を滑らせ、そのままセフィーロの頭を抱くようにナチは身を寄せた。 セフィーロもか細い声でそれに応えた。 「なんだ!?今の音!」 館の扉が開くと、ディクスが焦った様子で外に出てきた。その手にはフライ返しが握られていたりする。 土まみれのナチ、そして、いまだに目の痛みに悶絶している二頭のセカンダリを見、ディクスはあたりを見渡した。 「穴・・・」 視界に入る先に大きな穴が開いていた。そして散乱した大量の土。 「セフィーロが術を披露してくれたの」 ようやくセフィーロから離れ、ナチが説明する。 「あーあ・・・また派手にやってくれたな、セフィーロ」 呆れたようにディクスは言った。初めは怒ってもいたが、今となっては日常茶飯事だったのだ。 とはいえ、ここまでひどい爆発は久々だったが。 「ちゃんと元に戻しておくから」 「頼むぞ」 そう言うとディクスは再び聖域へと戻っていった。 「大丈夫?レクサス、アクオス」 強引に二頭の目をこじ開け、綺麗に土を洗い取ってやる。ようやく痛みから解放された二頭は疲れたように低い声で鳴いた。 「セフィーロ、これからは気をつけるのよ」 頭をぽんっと叩かれ、セフィーロは済まなさそうに目を閉じた。 そんなセフィーロがおかしくてナチは笑ってしまった。 「さあ、体を綺麗にしてあげる。皆こっちにおいで・・・」 言いかけたナチに影が通り過ぎる。それも一瞬のこと。 ナチは反射的に空を見上げた。 「あれは・・・」 そこには大きな空を羽ばたく物体。鳥ではない。竜を知っているナチは直感的にそう確信した。 「どうして竜が・・・」 だが、重要な事はそれではなかった。問題はその竜の飛び方だったのだ。 ふらふらと右往左往に飛ぶような不安定な飛行。しかも少しずつ下降しているように見える。 あのまま下降すれば町に被害が・・・ セカンダリたちも空を行く竜に気づいたのだろう。三頭そろって見上げている。 「セフィーロ、追いかけて!」 セフィーロが気合を入れるように咆哮する。 そしてナチを乗せたセフィーロは空へと舞い上がった。 |