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Skylove
FirstFlight

第2話 彼の行き先

夕方。
海ではしゃぎすぎてへろへろになったドライブは、ラグーンの背中の上でだれていた。
日も大分落ち、体全体に受ける風が冷たくなってきている。
『眠って背から落ちるなよ』
家に向けて飛行を続けるラグーンが呆れたように言う。
「落ちるかよ。俺はドラゴン飛行歴十年以上の大ベテランだぞ」
言い返し、あろう事か高速で飛行しているラグーンの背中の上で仰向けになった。
『落ちても知らぬぞ!』
文句を言うラグーンだが、誰よりも冷や冷やしているのはラグーン自身だった。
過ってドライブを落としてご臨終させてはいけないと、神経を尖らせて飛んでいるのだ。
いつになく良い風を感じ、ラグーンがそれに乗って飛行速度をさらに上げようとしたその時だった。
風の塊がラグーンにぶつかってきた!
『あ、風』
特に慌てるでもなく、ラグーンは翼を大きく羽ばたかせた。
しかし、ドライブは違った。
「うあああああっ!!拾って、拾ってえぇぇぇっ!!!」
ドライブが"落下"しながら叫ぶ。
不意にぶつかってきた風に態勢を崩し、ラグーンの背中から滑り落ちたのだ。
『ドライブ!』
そこへ図ったようにやってきたラグーン。猛スピードでドライブのすぐ隣まで降下する。
「お願い!拾って、拾って!落ちてるぅぅぅっ!!!」
『断る』
ラグーンの一言。翼を一振りすると、ドライブから一気に離れてしまった。
「いやぁぁぁぁっ!!」
絶叫を空に残し、ドライブはラグーンの翼の強風にあおられ、森へと落下したのだった。
がささささっ
静かな森に招かれざる客の落下音が響き渡り、森の大きな木々が派手に揺れる。
どさっ
堅い地面にドライブが落ちた。
「く・・・そぉ・・・・・・」
地面に横たわりひとしきりうめくと、息を切らして立ち上がった。あんなにも高いところから落ちたにもかかわらず、かすり傷程度のようだ。
ものすごい形相で空を見上げれば、ラグーンが上空を旋回しているのが見えた。
ドライブが森から出てくるのを待っているのだろう。
「ラグ――――ンッ!!」
森の外に向けてドライブが走り出した。すごい勢いで森を駆け抜け、やがて川に出た。
少し細めの川の中心にある、中洲にラグーンはいた。何事もなかったかのように平然としている。
「ラグーンッ!何で助けなかったんだ!俺死ぬところだったんだぞ!」
何も言わないラグーンに余計に腹が立ったのか、ドライブは顔を真っ赤にしてわめき散らした。
『大丈夫なようだな』
ドライブの様子を見て、当たり前のようにラグーンは答えた。そして、大きなあくびを一つする。
「何が大丈夫なようだな、だ!木の上に落ちたから良かったようなものの、もし何もない地面だったら俺死んでたんだぞ、わかってるのか!?」
『だからあおったのではないか』
済まして答える。
「俺の怒りをあおってどうするんだよ!」
まだまだドライブの怒りは治まらない。するとラグーンは首を振った。
『誰がおぬしの怒りをあおったといっておるのだ。我があおったのはドライブ、おぬし自身だ』
「やっぱ俺じゃねえかよ」
『違う、そういう意味ではない!おぬしの落下地点はあのままでは固い地面であった。だから我はぎりぎりまで近づいて、風の力でおぬしをあおって落下地点をずらしたのだ。だから大きな木の上に上手く着地したろう?』
言われればそうだった。ラグーンはわざわざ自分のところにやってきた。
そして、強烈な風を起こして去って行った・・・その風にあおられ、ドライブの体は舞い上がり、舞い上がったところで再び落下したのだ。
そのおかげで落下速度は弱まり、さらに体が森のほうへ飛ばされ、ドライブは大怪我を免れたというわけだ。
『我もすぐに捕らえようと思ったのだがな。思ったよりもおぬしの落下速度が速かったのだ。本当は背中に着地させるつもりだったのだが・・・』
そういうとすまなそうに頭を低くした。
『すまぬな』
「・・・・・・」
『とっさに思いついた方法があれしかなかったのだ。くわえるか、足で捕まえようかと思ったのだが、リスクが大きすぎてな。あの落下速度だ。失敗すれば大惨事は免れなかった』
ドライブは相変わらずラグーンをにらんだまま立っている。
まだ機嫌の直らないドライブにラグーンは困惑した表情を見せた。
『傷は痛むか?我が治してやるぞ』
ドライブの顔を覗き込むように首を持っていく。
「・・・」
『ドライブ?』
ばしっ
ドライブの手がラグーンの鼻先を叩く。驚いてラグーンは首を引っ込めた。
「ほら、行くぞ!日が暮れるだろう?」
そういうとドライブは浅い川を渡り、ラグーンの背中によじ登った。
『―――――― わかっておる!』
首を掲げ、空に向ける。ラグーンは静かな森に一つ吼えると大きな翼で空へと再び羽ばたいたのだった。


「夕飯の時間までには帰りなさいっていつも言ってるでしょうが!」
遊びすぎて日が落ちてから家に帰ってきたドライブとラグーン。そんな二人を待ち構えていたのはドライブの母親、エルビアだった。
「二人も揃いも揃って・・・どうしてお母さんの言う事が聞けないの!」
ごちんっ!
エルビアが手に持っていたステンレスの"おたま"がラグーンの頭を直撃する。
毎度の事だった。
硬い鱗で覆われているドラゴンのラグーンにステンレスのおたまは大したダメージを与える事は出来ない。それを承知の上でエルビアはラグーンにおたまを振るのだった。
『すまぬ・・・』
そして、いつものように頭を低くして反省の姿勢を見せるラグーン。そんなラグーンの様子を見て、ドライブはさも不機嫌そうにため息をついた。
「いつまで経っても俺は子供じゃないんだぜ?だって修学院だって卒業したしさ。母さんだって、修院を卒業したら立派な大人だって言ってたじゃんか」
「言動が子供だって言うの!少しは節度を持ちなさい。もう、十七でしょう?」
「―――――― こいつは数百歳だぞ」
ドライブはラグーンを指差した。
「ドライブ!」
エルビアの一喝にドライブは肩をすくめた。
「分かったよ・・・。ラグーン、行くぞ」
『・・・・・・』
シュウゥゥッ
ラグーンの体が輝き、形を変え、収縮していく。
「すみません、母殿」
ものすごく申し訳なさそうな表情で縮こまっている人間の姿のラグーンがいた。その哀れな様子に、エルビアは少し笑ってしまった。
「本当にもう・・・。ラグちゃん、分かってるとは思うけど、ドライブを甘やかさないで頂戴」
エルビアは釘を刺す。
怒っている時や真剣な時は"ラグーン"とそのまま呼ぶ事が多いが、普段や、機嫌がいい時は"ちゃん"付けで呼ぶのだ。いつもの口調のエルビアに、安堵したようにラグーンは息をついた。
察するに、ドライブとラグーンの事を少しは許してくれたようだ。
「・・・はい」
ラグーンは小さい声で答えた。
仁王立ちのエルビアをすり抜け、二人は家に入った。
「ドライブ。母殿の言う事を跳ね返すような事を言わないでください。火に油を注いでどうするんです」
洗面所で手を洗いながらラグーンが非難するように言う。
「だって、実際そうだし?十七って言ったら超大人だろ?あ、明日教習所の申し込みに行かないと」
タオルで手を拭き終えると、ドライブはタオルをラグーンに投げて行ってしまった。
「教習所って・・・。エレカーの免許取る暇なんか無いでしょうに」
タオルをきちんとたたみ、ハンガーにかけると、ラグーンはドライブの後を追う。
「お前まで俺を非難するのかよ。俺の忠実な僕(しもべ)じゃなかったのか?」
「僕はそんな契約をしたつもりはありませんがね。あくまでもドライブの翼となることを誓っただけです」
「同じだろ」
「どこがです」
二人でリビングに入る。
そのリビングにある大きなテーブルに、たくさんの料理が並んでいた。
いつもの量の倍はある。そして、特別な日にしか出てこない料理ばかりだった。
「・・・ドライブ。母殿はあなたの卒業をお祝いしたかったんですよ」
小声で言い、ドライブをつつく。
「―――――― そ、そんなの当然だろ。今日は特別な日なんだから」
ぶっきらぼうに言うドライブにラグーンは笑った。
「母殿にお礼を言わないと駄目ですよ」
「うるっさいな!分かってるよ!!」
怒ったように答えると、不機嫌そうに席に着いた。
そして、料理の一つをつまみ食いしようと手を伸ばした時だった。
ピンポーン
玄関のインターホンが高らかに響いた。
「はい、ラグーン、行って来ーい」
つまんだ鶏のからあげを頬張り、さも当然のようにドライブは言った。
・・・・・・どうやったらこの性格は直るんだろう・・・
ため息をつき、ラグーンは玄関のドアを開けた。
「こんばんわ!」
元気な声をかけてきたのは満面の笑みの少女だった。
「こんばんわ、カシス」
昔からの知り合いの二人はいつもの挨拶を交わす。
カシスはドライブの同級生で、修学院を主席で卒業した秀才だ。家も近く、昔はお互いの家に泊まったりする程仲が良かった。
「カシス、卒業おめでとうございます。すみません、ちゃんと家まで言いに行けなくて」
「いいのいいの!ドライブも卒業したんだし。でね、お母さんがこれ作ってくれたから、ドライブにって」
そして、カシスは籠を差し出した。
「高級モルス牛のローストよ。ラグーンも好きでしょ?」
上にかぶせられた白い布を取ると、なんともおいしそうな肉の塊が現れた。
「僕が全部食べて良いんですか?」
真顔のラグーンに、カシスは笑った。
「だめだめ!それは一人で食べたいのはわかるけど・・・皆で食べてね」
「ドライブなんかに食べさせるなんて・・・もったいない・・・」
心底残念そうにラグーンはため息をついた。
「そう言わずに、ね?じゃ、ちゃんと渡したから。帰るね」
「上がっていきませんか?ちょうど夕食を始めるところなんですけど」
「有難う。でも、あたしも家でお祝いして貰うから、家に帰るわ。バイバイ!」
手を振り、早々にカシスは帰ってしまった。
「・・・カシスはあんなにいい子なのに・・・。どうしてドライブはあんななんだろう?」
命令口調で、つっけんどんのドライブの不機嫌そうな顔が思い浮かぶ。
成績優秀で人当りも良いカシスとドライブを比べてしまい、ラグーンは二度目のため息をついて玄関のドアを閉めた。
「ほら、カシスからですよ。お祝いにって」
「カシスが?あいつも卒業生だろ」
また別の料理に手を伸ばし、一人で食べているドライブが首をかしげた。
「わざわざ持って来てくれたんですよ。後でちゃんとお礼を言ってくださいね」
「また面倒な・・・」
「ドライブ!」
「分かったよ!メールでも入れとくよ!」
ラグーンに注意され、ドライブは不機嫌そうに答えた。
いつものように二人が言い合っていると、エルビアが現れた。
「さあ、夕食を始めましょう。今日は特別な日なんだから」
さっきの怒りの表情はどこへやら。満面に笑みで、大きなケーキをテーブルの上に乗せた。
「そして、今日は特別にお酒ね」
テーブルの下からシャンパンのビンを持ち上げて見せた。
途端、目が輝くラグーン。急いで席に着いた。
エルビアはラグーンのグラスにシャンパンを注いだ。そして、ドライブにはジンジャーエールを。
それから、自分のグラスにシャンパンを注ぐ。
エルビアがグラスを持つと、ラグーンも、つられてドライブもグラスを手に持った。
「ドライブ、今日は卒業おめでとう。あなたがここまで育ってくれて、お母さんとても嬉しいわ」
ドライブは恥ずかしそうに視線をそらした。
「ラグーン。あなたも飽きずにドライブに付き合ってくれて有難う。これからもドライブの事宜しくね」
ラグーンは嬉しそうにうなずいた。
「では。ドライブの卒業と、前途を祝しまして」
三人のグラスが高く掲げられる。
「乾杯!」
カチン
互いのグラスが高らかに鳴る。
グラスのシャンパンを一気に飲み干したのはラグーンだ。飲み干すと、満足そうに息をついた。
「ドライブの卒業試験も終わったし、ラグちゃんの禁酒も解禁ね。ご苦労様」
エルビアは空になったラグーンのグラスにシャンパンを注いだ。
ドラゴンのラグーンではあるが、酒を好んで飲んでいる。
だが、ドライブが卒業を果たすまで禁酒すると誓っていたのだった。
半年振りの酒に、ラグーンはハイスピードでグラスを空けている。
「そうだ。母さん。これをって」
ドライブは思い出したように籠を渡した。
「あら、美味しそうなローストビーフ!」
「カシスが持ってきてくれたんです」
「まあ・・・。ちゃんとお礼しなきゃね。せっかくだから早速頂きましょう」
そして、エルビアは籠を持って台所に消えた。
「ドライブ、そこのサーモン取ってください」
「ほいっ」
ドライブはサーモンを皿に取り分けてラグーンに渡した。
「有難うございます」
もくもくと料理を食べる二人。
ローストビーフを切るのに手間取っているのか、エルビアはなかなか戻ってこない。
「なあ、ラグーン。これからの事なんだけど」
「ええ。操術士訓練校に行く準備をするんですよね」
「――― と、思ったんだけどさ」
グラスに残っているジンジャーエールを全て飲み、ドライブは一息ついた。
「マスターに挑戦しようと思ってるんだ」
「マスター・・・?マスターって、もしかして、術の最高位"マスターの称号"の事ですか?」
驚いた表情でラグーンが問うと、ドライブは無言でうなずいた。
「だって、訓練校卒業したって、操術士になれる確率は低いし。講座だって、結局は術関係の内容がほとんどだろ?操縦だってシミュレーターだし、結局就職してから実践って感じだ。だったら、マスターの称号を貰ったほうがいいと思わないか。就職率だって断然良いしさ。操縦技術は就職してから一から教えてくれるって聞いたし、訓練校に行くのは必須じゃないから」
訓練校というのは、飛空挺の操術士になるために、専門の知識を学ぶ所である。
通常ならば、飛空挺の操縦の仕方や、その他知識を学ぶ事で操縦が可能だが、ディオール大陸に存在する飛空挺は、特殊な技術を使っていた。
それは、術と科学技術の融合。
術とは頭の中のイメージを具現化する事だ。意思、意志力、精神力の三拍子がそろって初めて実現される。己の頭で作り上げたものを意志力を持って制御、精神力を持って具現化するのだ。
それを応用し、操縦者の意思をコンピューターを介して機体を動かす技術を開発した。
それがマインド・リンゲージシステム(MLS)と呼ばれる技術だ。
ハンドルやパネルを使って機体を操るより、MLSで動かした機体の方が動きが機敏で、精度が高く、より安定した航行が可能となる。
ブルーフォースと呼ばれる飛空挺がその代表で、飛空挺は人を目的地に運ぶだけではなく、空中庭園、空中ホテルなど、空に浮かぶ"島"としての需要も高い。
また、MLSを搭載した飛空挺を操縦する術者の事を操術士(そうじゅつし)と呼ぶ。
「確かに、学術院のマスターの資格を取れば、どの飛行企業でも就職しやすいでしょうけど・・・。でも、いつマスターが取れるか分からないんですよ?訓練校なら三年くらいで卒業できますけど・・・」
「俺は確実に就職できるほうに行きたいんだ。マスターの称号だって、一度取得すれば、一生の物だしさ」
ドライブが言っているマスターの称号とは、エンドレス国で行われている術の資格認定制度の事だ。適正試験を受け、合格する事で称号を得る事ができる。
称号を得るという事は、術者として優れた技術を持っている証明であり、術の教員免許や就職斡旋など、さまざまな特典がついてくる。就職にも非常に有利なのだ。
だが、称号の取得は難しく、十数年かけて取る者も少なくない。
「挫折する人も多いと聞きますよ。大丈夫なんですか?猛勉強は必至ですよ」
「術の勉強なら喜んでするよ。そうそう、この町を離れてさ」
「ルクレージュを離れる?どこで勉強するって言うんです」
何を言っているのかとラグーンは眉をひそめる。
「どこでも。なんかもう、世界中が俺の勉学地って感じ?」
ドライブは大げさに両手を広げ、うっとりしたように言う。
「・・・術が発達しているのはディオール大陸だけですけど・・・」
「とにかく、称号を得るためにはこの町を離れる事が先決なんだ!井の中の蛙じゃ駄目だ。広い視野で世界を見ないと!」
――― なんだか目的が町を離れる事にシフトしてませんか・・・?
操術士になるためにマスターの称号を修得したほうが良いという話から始まり、そのためには住んでいる町を離れて文献を広める事が必要だと、ドライブは熱く語っている。
早い話が、町を離れてぶらり旅と行きたいらしい。
「それ、すごく思いつきな上に、ただ単に旅がしたいだけでしょう?」
「何が悪い?」
冷ややかな視線のラグーンに、ドライブは偉そうに返した。
「修学院は卒業した。それだけでも十分!だけど、俺はさらに高みを目指すんだ。操術士という名の、空のエンターテイナーになるために!」
「ぐふっ!」
高らかに宣言したドライブに続き、ラグーンはタイミングよく咳き込んだ。
「あー、から揚げをいっぺんに口に入れすぎました。苦しかったー」
と、ドライブそっちのけで安堵の息をついている。
「お前ちゃんと話し聞いてるか・・・?」
「聞いてはいましたよ。でも、僕がどうこう言う事じゃないですし。全ての決定権は母殿にありますから」
「問題はそれなんだよな。お前から断ってよ」
「お断りします。自分から言ってください。大人なんでしょう?」
そっけなく言い、ラグーンは三杯目のシャンパンを飲み干した。
「冷てーなー。お前から言ってよ。お願い、ラグちゃん!」
「嫌ですってば。母殿、昔から旅だけは駄目だって厳しかったじゃないですか」
旅に出るような事はするなと、昔からずっと言われていたのだ。
それを破るような事をしたら・・・
ステンレスのおたまが頭を直撃するだけではすまないだろう。
「高級ジャーキー・・・お徳用・・・」
どこからかドライブはジャーキーがぎっしり詰まったパックを取り出した。
「ぐっ・・・!」
そのお徳用パックを目にし、ラグーンはうなった。
「母さんを口説いてくれたらこれをあげようかと思っていたのに・・・残念だな」
ドライブは悲しそうな表情でそのお徳用パックを戻した。
「いっつもその手じゃないですかー!わかりましたよ、頼めばいいんですよね!」
高級ジャーキーの誘惑に負けたラグーンはやけくそ気味だ。それににやりと笑ったのはドライブだ。
「よしっ、頼んだぞ!できるだけ早くにね」
機嫌よくラグーンの肩を叩く。
ドライブが困ったときは、ラグーンに高級ジャーキーをちらつかせて言う事を聞かせるのだ。ラグーンも大好物が貰えるとあって、まんざらでもないらしい。
「なんだかにぎやかな声が聞こえるわね」
話がちょうど収まった頃、エルビアが切り分けたローストビーフを持ってやってきた。
「何を話してたの?」
すると、ドライブとラグーンは一瞬顔を見合わせた。
「この料理が美味しいなって思って。母殿、今度この料理のレシピ教えてください」
苦し紛れに言ったラグーンが指差したのは甘だれの肉団子だった。
「あら、珍しい。ラグちゃんがそんな事言うなんて。いいわ、教えてあげる。今度の夕食に作ってね」
「お願いします」
ラグーンがドライブの家にやってきてから、エルビアに家事のなんたるかを全て叩き込まれたのだ。
週に二回はエルビアと交代で夕飯の支度もこなす。また、空を飛べる事を利用して配達のバイトをしているのだ。ただのドラゴンという扱いではなく、家族の一人だ。
「お前、この前みたいに変な葉っぱを入れるなよ。あの風味は俺たちには合わないんだからな」
もくもくと料理を食べていたドライブが言った。
「そうねえ。普通に作ってくれればそれでいいんだけど」
それはラグーンがビーフシチューを作ったときだった。
ラグーンがシチューに、"お気に入りの葉っぱ"を入れて煮込んだのだ。本人からすれば美味しい料理だったらしいが、ドライブとエルビアには不評だった。
お気に入りの葉っぱとは、ラグーンがドラゴン時に好んで摂取する木の葉の事だ。
香辛料や香り付けに使う月桂樹の葉の代わりに入れたらしい。
「もう大丈夫です。葉っぱは僕だけの楽しみにしますから」
ラグーンは苦笑した。
「ところでドライブ」
「うん?」
ドライブはカシスが持ってきたローストビーフをフォークに刺した。
「カシスはこれからどうするか聞いてるの?」
「カシス・・・?さあ・・・?卒験が忙しかったし、最近話してないよ。それに、あいつがどこに行くかなんて関係ないし」
自分とは全く関係がないとでも言いたげにドライブは料理を進めている。
「関係なくないでしょ。仲が良いんだし」
「仲が良いのは昔の話だよ!そんな事俺に聞かないでおばさんに聞けばいいだろ。いつもそこら辺で井戸端会議してるんだから」
「大人は別の話題で忙しいの。・・・ドライブ。これから先のことは、あなたが全て決める事よ。責任を持ってちゃんと行動なさい。いいわね」
急に真顔になり、エルビアは言った。
「―――――― 分かってる」
どこか心を見透かされたような気がし、ドライブは罰が悪そうに小さく返したのだった。


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