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Skylove
FirstFlight

第6話 得手勝手の代償

庭先で枯れた葉をちぎってはゴミ袋に入れ、綺麗な葉だけを残した枝を丁寧に並べているラグーンがいた。
明日の朝食の準備らしい。
「あ、ラグちゃんだ〜」
「こんにちは、メル」
隣接する家とを隔てる低木の植え込みから、メルと呼ばれた小さな女の子が、一生懸命背を伸ばしてこちらを見ている。
「ねえ、お空を飛んで!」
「すみません、これから夕食の準備があって―――――― 」
「はい、これあげる」
メルはすかさずジャーキーを差し出した。
「街を一周しましょうか」
それを真顔で受け取るラグーン。
「お前にはドラゴンの威厳というものは無いのか」
いつの間に帰宅したのか、ヴェイルフレイラと大きな荷物を抱えたドライブが立っていた。
幼子から好物で買収されたラグーンを見て、ドライブが情けなさそうに言う。
「食欲には誰も勝てませんよ。これは生き物の本能ですから」
「さっき草食ってなかったか?」
ドライブがユンカースのところへ行く直前だ。ラグーンは食事だとかで森に出かけていたはずだが。
「こっちは別腹です」
ちゃっかり受け取ったジャーキーを振りながら当たり前のように言う。
クルムの実や、ジャーキーの件といい、ラグーンは食に関してはとても現金らしい。
「あら、ラグーンにドライブ」
家の中から出てきたのはメルの母親、シリアだ。ラグーンにせがむメルを抱き上げた。
「どうも〜」
ラグーンが軽く頭を下げる。
「あれ、もう帰ってきてたの?」
シリアの登場に少し驚いたようにドライブが聞く。
「ええ、もうちょっと長く旅行したかったんだけど、イシスの仕事が急に入ってね。その埋め合わせにって、今からちょっと贅沢に食事なの」
シリアはいわゆるお隣さんで、ドライブと親しくしているのだ。
美人で知的で性格良しと、抜け目がない。シリアは数年前、近所に住むイシスと結婚したのだ。そのイシスもドライブの知り合いで、幼い頃は遊んでもらったり、勉強を教えてもらったりもしたのだった。
そんな二人は子供にも恵まれ、家と実家を行き来しているのだ。
「ごめんなさいね。この子がまたわがまま言っていたでしょう?」
「全然そんな事!良かったら一日こき使って!」
と、言ったのはドライブだ。ラグーンを嬉しそうに差し出している。
「ラグちゃんとお空を飛ぶの」
シリアの腕の中で、メルは空を指差す。
「今からお父さんと一緒にお食事でしょう?それに、ラグちゃんも忙しいの。困らせたら駄目よ」
「えぇー?」
「じゃあ、メル。今度一緒に空を飛びましょう。それまで、このジャーキーはメルが持っててください」
「・・・うん」
一度は貰ったジャーキーをメルの手に返した。頬を膨らませ、恨めしげな目で見上げるメル。
「じゃあ、二人ともまたね」
そして、二人は行ってしまった。
その姿が見えなくなるまで無言で目で追うドライブとラグーン。
「今から家族団欒なわけですね」
「何でイシスと一緒に・・・俺がもっと早くに生まれたら・・・なぁ・・・」
と、メルと手を繋いで遠ざかっていったシリアを見て残念そうにドライブはため息をついた。
シリアはドライブの憧れの女性像だった。憧れが淡い恋心に変わった頃、シリアは結婚してしまったのだが。
「イシスさんいい人じゃないですか。ドライブと違ってイケメンですし」
イシスがシリアと昔から仲良くしていたこともあり、いつ頃からかドライブはイシスを敵視していたのだ。
「それに、ドライブが早くに生まれていたとしても、シリアさんはイシスさんと一緒になっていますよ。運命とはそんなものです。誰にも捻じ曲げられません」
「いたいけな少年の夢を潰すな」
「痛い少年の痛い夢は夢であるうちに摘んでおくべきです」
「・・・誰が痛い少年だって?」
「あ!ドライブ!枝踏んでます!!」
ラグーンが声を上げてドライブの足元を指差している。
「また庭を葉っぱだらけにしやがって・・・」
「掃除しているのは僕です。それより、ボードは直して貰ったんですか?」
ドライブがヴェイルフレイラを指差している。
「多分な。ほら、ヴェイルフレイラ」
と、ラグーンに渡した。
「何ですって?」
うまく聞き取れなかったのか、ラグーンは困惑した表情で問う。
「ヴェイルフレイラ。このボードの新しい名前だってさ」
珍しく、ユンカースに言われた通りに名前を呼んでいる。
難しい名前だが、呼んでみると意外にかっこいいかもしれないと、ドライブはその名前を気に入ったらしい。
「ヴェイル・・・フレイラ・・・?」
何の事かさっぱり分からないラグーンは首を傾げている。
「高性能のシステム入ってるらしいから、乗って壊すなよ」
「残念ながら、僕には翼がありますから、飛び道具は無用です。・・・それにしても遅かったですね。もう夕方ですよ」
ドライブがユンカースのところに向かったのは昼過ぎだ。
「バッテリーの持ちを良くして貰ったついでに何か入れたいものがあるとかで、またこいつ預けてたんだよ。その間、町をふらついていただけだ」
「いいんですか?旅の準備しなくて」
ラグーンはドライブにヴェイルフレイラを返した。
それを受け取り、ドライブは真顔になってラグーンを見た。
「俺さ、できれば早いうちにここを出ようと思ってるんだけど」
「その方がいいでしょう。母殿の気が変わらないうちに」
ラグーンは再び葉の仕分け作業を始めた。ドライブが踏んでしまった葉をちぎってゴミ袋に入れている。
「お前はどうするんだ?」
「・・・どうと言いますと?」
「いや、だから、お前は着いてくるのかって事だよ」
ラグーンは手を止め、ドライブを見つめた。
「ここには母殿がいますし・・・。僕は町に残る事にします」
その答えにドライブは目を丸くした。
「・・・あ、そう」
ドライブはわざとらしく視線を逸らし、そのまま何も言わず玄関に向かう。その姿を同じように無言で視線で追うラグーン。
そして、ドライブは家に入った。
「――― 早いうちに出発・・・」
ラグーンは眉をひそめた。そのまま空を見上げ、地面を強く蹴った。
体がふわりと浮き、空に飛んだ。
翼で飛んだのではない、飛行術という術を使って飛んだのだ。修得が非常に難しい術の一つで、ラグーンが町中を移動する時はこの術を使用する事が多い。
いちいちドラゴンに戻るのは面倒らしい。
「間に合うでしょうか・・・」
不安そうにつぶやき、夕日に向かって飛んだのだった。


「ラグーン!」
次の日。
エルビアの頼まれもので、繁華街で買い物をしている途中だった。ラグーンは呼びかけられ、振り返った。
「ラグーン、ドライブの事なんだけど」
呼び止めたのはスポーツ用品店を営む主人だった。
「こんにちは。・・・ドライブがどうかしました?」
「ああ。昨日うちに来てさ、色々買ってもらったんだけど・・・」
どうやら、ドライブは昨日、ヴェイルフレイラを修理している間にこのスポーツ用品店で暇を潰していたらしい。
「キャンプにでも行くのかい、あいつ。小型ナイフとか寝袋とかテントとか買っていったけど」
もちろん、ラグーンはその理由を分かっている。
しかし、既にそんな準備をしていたとは・・・早めに出発するというのは嘘では無いのかもしれない。
「ええ、そうみたいですよ。慌てて準備しているみたいで・・・」
「それでなんだけどさ」
店主は言いにくそうにラグーンの顔を窺っている。
「代金後払いだって事で、金、貰ってないんだよ・・・」
と、衝撃の事実を伝えた。
それを聞くや否や、深いため息をつくラグーン。頭では拒否の信号が出ているにもかかわらず、手は財布を取り出していた。
「す、すまないな・・・!税込み四万二千クレジットきっかり!」
高額だが、財布の中にちゃんとあったようだ。ラグーンは落胆した表情で金を渡す。
「・・・ちょうどだな。――― 本当に悪いな、ラグーン。これからも頼むよ!」
用事を済ませると、そそくさと店主は店に戻ってしまった。
昨日、ヴェイルフレイラと一緒に抱えていた大きな荷物はテントや寝袋といった旅の必需品だったらしい。
旅に備えるのは感心するが、その支払いを後払いにするとは・・・。
ラグーンが支払ってくれると読み、ドライブは敢えてそうしたのだとラグーンは確信した。
「なんてあくどい・・・!!」
怒りを秘め、お買い得の卵パックを買うために歩き出したのだった。
そのドライブは、術の演習場にいた。
町に設置された術を訓練する特別な施設で、少し町から離れているが、大きな術を繰り出す事が出来るのだ。
「ふーん、じゃあ、本当に旅に出ちゃうんだ」
タオルで汗を丁寧に拭きながら、カシスはドライブに缶ジュースを渡した。そして、ベンチに座っているドライブの隣に身を落ち着けた。
「まあな。母さんの気が変わらないうちにって、慌てて準備してるところ。あれもこれも必要なんじゃないかって考え始めると止まらなくてさ。相当大きな荷物になりそうだって」
「ラグーンも一緒じゃないしね」
すると、どうしてその事を知っているんだと、ドライブがそんな目で見た。
「直接聞いたの。仕事があるからって言ってたと思うけど」
「別に、当てにしてないし。俺にはヴェイルフレイラがあるから移動には困らないよ」
本当に当てにしていないかどうかは定かではないが、金銭的にはかなり当てにしている事は間違いない。
「エレカーじゃないの?」
「エレカーなんて準備する金なんてないよ。免許だって取ってないし。・・・あー、免許取る暇も無いな・・・」
ドライブは空を仰ぎ、熱くなっている額に冷たい缶ジュースを押し付けた。
「それは大変ねぇ・・・」
「ところで、カシスはどうするんだ?なんだかんだ言って進路の事聞いてなかったけど」
すると、カシスは少し焦ったように首を振った。
「大した事ないもの。勉強を続けようと思ってるだけ」
「この町で?」
「う・・・それは・・・そうじゃないけど・・・。少し一人暮らしをして学んでみようかなとは思ってるけど」
しどろもどろになっているカシスの答えにドライブがくらいついてきた。
「へー!どこで?住所くらい教えろよな。押しかけるから」
「・・・う、うん・・・まだ住所覚えてないから、今は・・・。後でね」
「絶対だからな」
言い、ドライブは缶ジュースの蓋を開けて、一気に飲み干した。カシスは、手に持っている缶ジュースを慎重に口に運びつつ、ドライブの様子を窺っている。
・・・・・・良かった・・・あまり気にしてないみたい・・・
ドライブもマスターを目指しているとラグーンが言っていた。
そして、カシスもまたそのマスターを目指している。しかも、マスターとなるに一番近い学術院という場所で勉強するのだ。
それにどこか引け目を感じ、ドライブに全てを明かすことが出来なかったのだった。
「よっし!もう一汗かくか!いいよな、カシス」
ドライブは缶をゴミ箱に投げ捨てると、勢いよく立ち上がった。
「う、うん!」
いつもなら断っているところだが、カシスは返事をし慌てて立ちあがった。
そして、演習場のフィールドにドライブと距離を置いて立つ。すると、ドライブたちのほかに術の訓練をしていた術者達が休憩所に集まり始めた。
ドライブとカシスの二人を見守るように。
「俺と対等に渡り合えるのはカシスだけだからな。手加減するなよ」
「術に関してはドライブに負けたくないわ」
ダンッ!
地面を強く蹴り、最初に動いたのはドライブだった。見据えているカシスにまっすぐ突き進む。その手が赤い光に包まれ始めた。
カシスのすぐ前で振り上げたドライブの手から轟音と共に巨大な炎の塊が出現した。それを、勢いのままに地面に叩きつけると同時に、カシスの足元に赤い亀裂が走った!
「ジン・エクスプロード!!」
「発動までの時間が長すぎ。相手に手の内を見せてるのと同じよ!」
カシスの手が亀裂に触れるか触れないかで、その手の平から巨大な氷の柱が地面より突き出でた。
マグマでも噴出しそうな大地を静め、鋭い氷の支柱がドライブに向かって走る。
「そんなの当たり前だろ?相手に思い通りの術を使わせるための策なんだからな・・・!」
高く飛んだドライブは氷の支柱を蹴り・・・滑った。
「うおわっ!!!」
「ドライブ!!」
バランスを崩したドライブに、カシスが悲鳴を上げる。ドライブの体はバランスを崩したまま鋭い氷の谷へと落ち――― ようとしたところで、氷が一気に気化した。辺りに濃い霧が立ち込める。
「せ、正々堂々と戦いなさいよ!」
視界が悪い中、焦ったようにカシスが叫ぶ。
さっき滑ったのはわざとだったらしい。カシスがひるんだ隙に、ドライブは術を発動させ、氷を水蒸気に変えてしまったというわけだ。
「セイル・ウィンド!!」
カシスの風の術が霧を吹き飛ばす。同時に、半球型のシールドを展開した。
ガキンッ!!
硬い音が頭上に響き、カシスは見上げた。そこには、硬いシールドに叩きつけられた、ドライブの術が四散する場面が広がった。
硬い岩でもぶつけてきたのだろう。砕けた岩は埃と小さな石を撒き散らして崩れていく。
「・・・あたしこれでも女の子なのよ。ちょっとは手加減くらいしたっていいのに」
容赦ない攻撃に、カシスは眉をひそめた。
「こてんぱんにやられたいみたいね・・・それがお望みなら―――――― 」
カシスはシールドの術を解き、"空に舞い上がった"。
「エセ飛行術!!」
空に浮かぶカシスを見て、ドライブが喚くように言った。
「うるさいわね!これから修得するんだから!」
修得が非常に困難とされる飛行術。カシスは浮かぶ事だけしか出来ないらしい。
しかし、それでもどれだけすごい事か、ドライブの嫉妬の叫びが物語っている。
「散々攻撃してくれちゃって・・・覚悟なさい!!」
カシスは空に何かを掲げた。それは小さな石だった。
「術力強化版グランドスプリット!!」
「うわっ!卑怯!!」
カシスの手にある石が一瞬強い光を放つ。と、同時に、ドライブを中心に、大地が広範囲に光を放つ。
「ちょっ・・・まっ・・・!!!」
ドムッ!!
叫びむなしく、ドライブは粉塵に消えた。
「はぁ・・・はぁ・・・」
石を握り、カシスは深く息をしている。だが、油断していられない。
集中力が途切れば、地面へまっさかさまだ。それほどに、滞空する術というのは術力が要る。
ラグーンの特訓のおかげでここまで修得できたのだが、長い間、この次のステップに踏み込むことが出来ないでいたのだ。
「・・・・・・」
粉塵が大分治まったところで、カシスは地面に降り立った。その視線の向こう。棒立ちしている茶色いものがあった。
「か、カシス・・・」
土まみれで全身まっ茶色の、戦意喪失したドライブだった。
「戦闘において、一番効果的なのは相手を戦意喪失させること・・・だったわよね。どう?少しは反省した?」
「は、反省って、俺は何も悪いことしてないだろ!」
「卑怯な手を使ってあたしの気をそらしたじゃない。反省するには事足りる理由だわ」
カシスは当然のように言う。だが、それで納得のいくドライブではなかった。
「あれだって敵をひるませる立派な策だろ?引っかかったからって怒るのは筋違いだぜ」
「ドライブには誠意ってものが感じられないのよ。何もかもが卑怯に見えるわ」
「戦闘でいちいち誠意なんか見せてられるかよ。お前はひねてるからそう感じるんだ!」
「違うわよ。日ごろのドライブの行いのせいよ。たまには自分を省みてみたら?」
冷たく言われ、ドライブは唇を噛んだ。
そして、カシスのすぐ傍まで無言で歩いて来た。
「・・・何よ」
間近で見るドライブは、顔も土まみれだった。唯一色の違う目だけがやけに目立つ。
「お前も汚れろ!」
ドライブはカシスの頬にいきなり両手の平をなすりつけた!
「きゃあああっ!!」
カシスは驚いて後方に下がったが、ドライブは執拗に手を伸ばしてくる。
「誰のせいでこんなに汚れたと思って――― 」
「こ、来ないでーっ!!」
暴挙に出たドライブに、カシスは半ばパニック状態だ。
逃げようとするカシスを追おうと走り出すドライブ。
「待てっ!!」
汚れた手でカシスの腕をつかもうとした時だった。
『ドライブッ!!!』
怒号と共に、ドライブの頭上から大量の水が落ちてきた!
振ってきた水の圧力に耐えかね、ドライブは地面に手をつけた。
「ドライブ・・・?」
その様子を驚いた表情で見ているカシス。ドライブのすぐ目の前にいた彼女だが、誰かが展開したシールドのおかげで被害は全く無いらしい。
ドライブは水を滴らせたままゆっくりと立ち上がった。
大量に落ちてきた水はドライブの汚れを全て落とす事が出来ず、所々まだ髪や服にこびりついている。
この術が誰が放ったのかはわかっていた。
ドライブは鬼の形相で振り向いた。
「ラグーン・・・!!!!」
後ろに立っていたのはラグーンだった。腕を組み、冷たい目でドライブを見ている。
「一体何をやってるんです!女の子をいじめるなんて・・・男として最低の行為ですよ!」
ラグーンはドライブはカシスを追いかけているところを見ていたのだ。それでドライブに術をお見舞いしたらしい。
「お前が口出す事じゃないだろ!俺達の問題だ!」
「いや、何も問題になってないし!」
カシスが思わず突っ込む。
「俺が土まみれになったのが大問題なんだ!」
「それは勝負の中での出来事でしょう?負けたからって八つ当たりするなんてサイアクよ」
カシスは土で汚れた頬を触りながら言い返す。
「そんな理由で・・・!ドライブ!あなたって人は本当に成長しない人ですね。代金の事といい、どうして人を巻き込むんですか」
言うと、ドライブの表情が変わった。
「あ、もしかして、昨日の代金払ってくれたんだ?」
少し期待を込めた声で聞くと、ラグーンは難しい表情でうなずいた。
「わ、有り難う!」
「"有り難う"じゃないでしょう!ちゃんと返してもらいますからね。それと・・・、カシスにもちゃんと謝ってください!綺麗な顔がドライブのせいで汚れてしまってるじゃないですか」
「誰が綺麗な顔だって?」
すると、ラグーンはつかつかと歩き、ドライブの肩を力強くつかむと、無理やりカシスに向き直らせた。
「お、おい!」
ドライブの抵抗むなしく、ラグーンの強い力で頭が押さえつけられる。
「カシス、すみません。顔を汚してしまって」
と、ドライブに無理やり頭を押さえつけた状態で、ラグーンも頭を下げた。
「大丈夫だから・・・拭けば問題ないし・・・」
カシスは困惑した様子で答えた。
さ、さすがラグーンはドライブに容赦がないわ・・・おばさんより怖いかも・・・・・・
実は何度も見てきた光景だが、ラグーンはドライブの事となるとエルビア以上に厳しかったのだ。
こうされては、カシスも許すしかない。
ドライブは抵抗しているが、ラグーンの力が相当強いのだろう。もがくだけで逃れられない。
さすがに哀れに感じてくる。
「ラグーン、もういいから。本当に大した事ないし!」
ドライブも大きくうなずいた。
「ほら!カシスもそう言ってる事だし・・・!」
すると、押さえつけられていた力が急に弱まった。チャンスと、ドライブは顔を上げたが・・・
ガツンッ!!
「っ!!!」
ドライブの頭にラグーンの拳が炸裂した。
頭をさするドライブに、ラグーンの冷たい視線が注がれる。ラグーンが何を言いたいのか、その目を見るだけで分かる。
「ごめん・・・」
反抗する気も失せ、ドライブは肩を落としてカシスに謝った。
「あ・・・うん。・・・ドライブも大丈夫?服が汚れちゃって・・・」
「大丈夫ですよ。母殿に怒られるだけですから」
ニコニコ顔のラグーンとは対照的に憔悴した表情のドライブ。
土まみれにしてしまったのはやりすぎたかとカシスは内心後悔していた。
「カシスのせいじゃないですよ。ドライブの未熟な精神が招いた結果ですから。――― もっと鍛える必要があるようですね」
ラグーンの眼光が鋭く光る。ドライブは震え上がって首を振った。
「じゃあ、カシス。僕たちはこれで」
そして、ラグーンはドライブの首根っこをつかむように演習場を出て行ってしまった。
これからまたラグーンの説教が始まるのだろう。長い長い説教が。
昔、ドライブがカシスにいたずらをして泣かせてしまった時、ラグーンはドライブを一晩掛けて説教した事があった。
以降、長い説教は定番となっているのだが・・・
「後で高級ジャーキー持って行かなきゃ」
哀れなドライブを助けるべく、カシスはラグーンをなだめに行こうと、そうつぶやいたのだった。


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